不動産業界がオンライン商談時代に取り組むべきMA活用

 3回に渡ってお届けしてきました本シリーズ最後の寄稿となります。第1回では、大きく変わりつつある不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)について解説しました。デジタルマーケティングやオンライン商談を活用した営業スタイル、そしてデータドリブンなレベニュー収益プロセス管理を多くの企業が取り組みを始めています。第2回では自社ウェブサイト活用の重要性や、データを活用する事でいかに効果的なコミュニケーションを実現できるのか、これらを実例をベースに解説しました。今回は前回までにご紹介したレベニュー収益プロセス管理、シミュレーションや改善など、収集されたデータをいかに活用して改善プロセスを構築していくか運用面について解説していきたいと思います。

目次

収益から施策レベルまで"プロセスを繋げる"

 まず改善プロセスを構築する上で、最も大切な観点は"売上に貢献しているか"です。当然ではありますが、企業活動は全て企業の成長、即ち売上、利益を成長させていく、マーケティングはその成長のドライバーを担うわけですから、それぞれの施策が売上に貢献しているという事を明確に評価する必要があります。MA(マーケティングオートメーション)はマーケティングの効果検証、収益管理に特化したデータ構造を持っており、従来よりもあらゆる事がデータで管理しやすくなりました。そしてこれらのデータを活用して、クイックに意思決定をして、改善サイクルを構築していくことができるようになりました。第一回目でもご紹介したような収益プロセスをデザインし、売上に繋がる一連のプロセスの測定計画を立案し、何をすれば、何を改善すれば、どの程度売上が上がるのだろうという事をシミュレーション、効果検証ができるようにする事は必要な作業で極めて重要なステップです。

 マーケティング、営業、いずれかどこかでプロセスが途切れてしまっている状況は一刻も早く改善するべきです。見込み顧客が受注に繋がっていない。その後の状況がわからない。というような状況では施策をいくら行っても、売上に繋がるかもわかっていないものに多額のコストを払っているのと同じ事です。当然、効果検証も難しく、本当に重要な改善エリアを特定することも難しいでしょう。一方でこれらの収益プロセス管理がしっかりできていると、施策単位では極めて小さな数字の変化でも、非常に大きな売上効果をあげているのだと気づく事もできます。

 不動産業界は誰が購入したかわからないという事は基本的には起こりにくく、これらの収益プロセス管理が非常に行いやすい業界です。もし現在全体の収益プロセス管理をされていない場合はすぐにでもシステム構築に取り掛かる事をお勧めします。

 下図のように、コストと成約金額のROIに加えて、マーケティングとセールスの課題を発見するために、「成約に至るまでの歩留まり」ここをしっかりと細かくトラッキングする事で、収益プロセス上のどこに課題があり、改善をすればどの程度のリターンが得られるのか。というデータを検証しながら、施策の検討や改善プロセスを構築する事でより収益を意識したマネジメントが可能です。闇雲に施策を行うより遥かに生産性やROIが向上することはいうまでもありません。

マーケティング施策効果の想定

 オンライン時代の営業・マーケティング活動はその効果もデータで測定できる事に大きなメリットがあります。ダイレクトに効果が出ているのか、出ていないのか。そういう事を検証しながら施策を実行していく事ができます。
 例えば"オンライン商談数を100件, 受注を200件 増やす"という目標があった場合、多くのケースで広告媒体への出稿量を増やす。新しい媒体へ出稿するインセンティブ付きのキャンペーンを実施する。これらの施策でリード(見込み客)の総量を増やす事に力点を置きます。実際に潜在層へのリーチやポテンシャルのあるリードの総量を増やすことは商談の増やす上で極めて重要です。しかし、その後のナーチャリング、ようはメールアドレスや電話番号のコンタクト情報を取得した後に、どのようにして顧客とコミュニケーションを図り、オンライン商談にご参加いただくか。ここまでセットで考えられているケースはあまり多くないと思います。

 下記の簡単なシミュレーションを見てください。リードからの商談化率が5%変わるごとに、必要な新規リードの獲得数が変わってきます。目標とするROIは?こういう効果目標を最初にしっかりと設計できていることが改善のサイクルをスピードアップする上で重要です。

マーケティング施策設計

 施策の設計においては、共通情報(全ての顧客に対して共通のメッセージを届ける)、セグメント情報、パーソナライズ情報、これらを組み合わせて、どのようにお届けしていくか、シナリオの設計が重要です。シナリオはただコミュニケーションを設計するだけでなく、測定計画もセットで考える必要があります。

 共通情報、セグメント情報、パーソナライズ情報はデータの収集レベルで変わります。これは検討レベルとも言い換える事ができます。最初は多くのデータを収集できていないので、汎用的な共有情報しかお届けできないとしても、検討レベルが高まればフォーム、ウェブをはじめとした行動データ、これらのデータを活用して、どのようにパーソナライズしていくのか、前回の寄稿でお話した通り、隠れたニーズを推測し、いかにニーズに合致したコミュニケーションができるかということが重要です。このように情報のターゲットとなる情報の収集を目標にして、シナリオの設計を行う事で明確なコンバージョンのポイントを設定が行いやすくなります。

これらの実現にはマーケティングオートメーションのテクニカルな知識も必要です。マーケティングオートメーションはパーソナライズに必要な様々な機能が用意されていて、これを効果的に活用する事で、パーソナライズメッセージを構築できます。特にトークン(特定のテキストや画像を顧客または施策に関連する情報を表示する)、ダイナミックコンテンツ(顧客のステージ、セグメント事にコンテンツを出し分ける)という機能を使う事で相当パターンのメッセージを自動的に生成することができます。一つ一つ書くと膨大な数になるパーソナライズされたコンテンツが数分で完成してしまいます。こういうパーソナライズされたコンテンツと汎用的なコンテンツでは、当然メッセージの到達率も変わってきます。

施策効果の検証

 効果の検証においては、想定した効果、ROIと比較して、うまくいっているのか、うまくいっていないのか。という事からはじめていきますが、もし想定した効果が出ていない場合やさらに改善をしていく際には下記の順番で検証していくと早く改善策に辿り着けます。

ターゲットは正しいのか?

 そもそものターゲットが誤っているケースは全ての前提が覆るケースもあり、早期の方向修正が必要です。このタイミングで物件自体に魅力が無いと考える方も多いのですが、ターゲットが間違えていると物件の魅力も伝わりませんし、正しいターゲットにマーケティング、営業活動をしているのか?これは常に意識するべきです。

 データが少ない段階ではある程度、自分達の思い込みでターゲティングをしているとこういう事はよくある事で、気づいたタイミングで大きく方向転換をする勇気も必要です。ターゲットが違う(=効果が極めて悪い)そういう時は、いち早くバナーやランディングページのクリエイティブテストなどを実行し、データを収集し、より的確なターゲットを検討していきます。

シナリオは正しいのか?

続いてはシナリオです。想定に近い状態で効果が推移している場合、この検証に進みます。シナリオを見直すというのは、施策内で明らかに、遷移率が悪いエリアがないか検証し、改善策を検討します。例えば、なんだそんな事かと思うかもしれませんが、オンライン会議システムの使い方の紹介や、システム自体を変更しただけで、効果が大きく変わったケースもあります。オンライン商談に誘導する際に、顧客がなんだか難しそうでややこしそうだな。と感じてしまい、そこでの離脱が多かったのです。これも顧客のニーズは当然、簡単に安全にオンラインで商談ができる。ということですので、より簡単で、よりわかりやすい解説をメールに書くだけで、そこでの離脱が大きく減ることにつながります。
 このようにシナリオ全体を俯瞰して、問題となっている箇所に気づく事ができれば、ピンポイントで改善をする事ができ、効果も得やすくなります。

ニーズにあったコンテンツを提供できているのか?

 次に各コンテンツの効果です。これは、メールであればクリック率、ウェブサイトであれば直帰率やコンバージョン率、これらの指標を見て、数字の悪いものは改善または停止し、数字の良いものは改善及び拡張をするというシンプルに見ていく事をお勧めてしています。大切なのはターゲットやシナリオというより大きな所で問題があると、コンテンツをいくら改善しても効果は出にくいと思いますので、最後にこのコンテンツの検証をすることです。コンテンツの検証に進めている施策は継続的にシンプルな指標を使いながら改善活動を継続します。

 このように、収益プロセス管理、施策効果の想定、設計、検証、これらをデータを管理しながら、効率よくオペレーションを構築していく事が、オンライン商談時代において大変重要な時代になりました。もちろんマーケティングやセールスは感性も重要です。その感性に加えて、意思決定をサポートしてくれる様々なデータにアクセス可能な時代です。不動産業界にも大きなDXの波がきています。そしてこれからデジタライゼーションは急速に進化をしていくことと思います。これまでのやり方ではなく、新しい時代の営業、マーケティングスタイルの確立にいち早く取り組んだ企業、そうでない企業では大きな差がつくと思います。

MA(マーケティングオートメーション)の導入について

 これまで解説してきた通り、マーケティングオートメーションは大変パワフルなシステムで、DXの推進、売上UPと、非常に大きな効果をもたらします。ただ、マーケティングオートメーションは導入すれば勝手に売上が上がるわけではなく、この3回の寄稿で解説してきたような、新しいマーケティング、セールスの収益プロセス管理、組織運営までも見直しをしていく必要があります。これらの活動をリードするプロジェクトチーム、担当、そして活動をサポートしてくれるパートナーとも協力し、単純にシステムだけを導入するという意気込みではなく、企業の中長期戦略としてDXを推進するのだという強いコミットメントが必要です。

ライター紹介

天谷 勇一
デジメーション株式会社 代表取締役
天谷 勇一

マーケティングオートメーションを活用したCRM戦略や、データを活用したサイト構築・デザイン制作、WEB広告メニューのプランニング、などデータに基づいたプロモーション戦略を中心に、現場担当者だったからこそ分かるセールス部隊とマーケティング部隊の間に生じる課題の抽出・解決やツール(施策)の定着化運用などが強み。
デジメーション株式会社について
企業成長に貢献する戦略的レベニューパートナーとして、デジタル時代の成長戦略立案及び実行を支援します。企業の成長、即ち収益指標へのインパクトを強く意識した効果的なプランニングを強みとしています。
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