第一回目の寄稿では、オンライン商談時代に向け不動産業界で変わりつつあるDX、そして収益プロセス管理のアウトラインについてご説明しました。今回はより具体的な施策レベルでの変化、具体例を解説していきます。
目次
より重要性をます自社ウェブサイト
不動産業界のデジタルマーケティングは以前より不動産ポータルサイトが集客の起点として、非常に重要なチャネルの一つとして捉えられてきました。その重要性については今も変わりませんが、ポータルサイト上のみでの適切な顧客コミュニケーションは難しくなりつつあります。そのため、改めて自社ウェブサイトへの集客、そして自社メディアでのコミュニケーションが果たす役割が大きくなっていると言えます。
理由は様々挙げることができますが、やはり一番は情報量の観点です。
情報量については、2つの側面があります。1つは提供する情報量、そしてもう1つは取得できる情報量です。1つ目の提供する情報量に関しては、ポータルサイトの決められた枠組みの中ではなく、あますことなく自社物件の魅力を伝えることができます。顧客の購買行動、情報収集はオンラインが主戦場となっており、ポータルサイトで条件検索、例えばエリアや家賃または物件価格などで絞り込みを行い、そして興味のある物件に資料請求をしていきます。ポータルサイトで資料請求や問合せをするタイミングでは、1つの特定の物件だけでなく、複数の物件に対して一括で行われることがしばしばあります。もし希望の物件が特定されているのであれば、ポータルサイトではなく、直接自社ウェブサイトに訪れるかもしれませんが、多くの場合は複数の物件の情報収集からスタートすることが考えられます。この、特定の物件への温度感がまだ高まっていないタイミングで素早くコミュニケーションを開始し、自社物件の魅力をあますことなく伝えるための手段を充実させることが、その後の歩留まりに大きく影響してきます。
1秒でも早い情報提供で顧客とのエンゲージメントを構築
複数の物件資料を同時に請求したタイミングは、顧客にとって最も物件に対する興味が高まっている状況だと考えられます。ECサイトで物品を購入した際に、商品が早く届くのを楽しみにしているという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。例えばAmazonは最短で当日、遅くとも翌日配送という優れたロジスティックの技術で、顧客に素晴らしい体験を提供しています。これは不動産購入でも同じで、情報が欲しいので、資料を請求している。そしてその内容を早く確かめたいと考えている事でしょう。この事からもポータルサイトで資料請求をしたタイミングでいかに顧客の心を掴むのかが、極めて重要なタイミングであるかが想像できます。
ある例をご紹介します。パンフレットの郵送でしたら、手配から到着までに1日-3日程度は最低かかってしまいます。弊社が支援する企業様では、そのパンフレットが到着する前に、請求からできるだけ早いタイミングで、デジタルパンフレットをメールで送るようにしました。たったそれだけの時間の違いでもその後のエンゲージメントが大幅に変わりました。
適切なタイミングでより顧客を深く知る
続いては取得できる情報の量です。前回の記事でもご紹介いたしましたが、MA(マーケティングオートメーション)を活用すると、資料請求を行った方の中で、自社のウェブサイトに誰がアクセスし、いつ、どのような情報にアクセスしたか、という情報を収集できるようになります。また、MAの機能を使って個人情報入力フォームを容易に構築する事ができたり、プログレッシブプロファイリングと呼ばれる機能を活用すれば、以前フォーム入力をしていただいた際に未取得であった情報だけ入力すれば良いようにフォームの制御をすることもできます。これらの機能を活用すれば、段階的に顧客の情報をより多く取得することが可能になります。
先ほどのデジタルパンフレットの例でいいますと、デジタルパンフレットの閲覧時に顧客の電話番号や簡単なアンケートなどを追加で取得できます。特に電話番号はポータルサイトでは必須項目となっておらず、記入する方は珍しいです。もし電話番号を記載した場合、複数の会社から電話がたくさん掛かってくるのではないかと心配されているからです。しかし、適切なタイミングで必要な情報を提供できていれば、電話番号の取得率も高まります。その為にもポータルサイトで資料請求をしたお客様を自社ウェブサイトへの導線の設計というのが非常に重要になってきます。興味が高まっているタイミングで素早い対応、それと同時に自社ウェブサイトに顧客の興味に即した魅力的なコンテンツを設置する事が重要です。
そういう意味では、「資料請求=資料が見たい=資料が今すぐ見られる」というストレートな訴求で顧客のニーズを満たす事ができれば、難易度の高い電話番号の収集も可能になります。しかしながら、ここで注意したいのは、収集した電話番号に即座に電話をしてしまうと、今後は「電話番号を入力したくない=電話がかかってくるから」という意識になる可能性があり、逆効果になってしまいます。もちろん電話番号を最初から記載している方であれば、電話をお待ちしているかもしれませんのでご連絡した方がよいでしょう。要は、何が顧客にとって最適なコミュニケーションチャネルなのか。というような隠れたニーズもしっかりと理解することが重要です。
データを駆使し、ニーズに沿ったシナリオを構築する
顧客のニーズに沿ったコミュニケーションを実現する為に、先ほど挙げたように、「顧客はなぜそうしたのか?」という顧客目線に立って、適切なコミュニケーションシナリオを構築していく必要があります。ただし、顧客のニーズは多様で、その全てを人力でカバーすることは難しいはずです。そこでデータを駆使し、顧客の行動に沿った適切なコミュニケーションを実現する自動化の仕組みが大きく役に立ちます。
- 電話番号を記載せずにポータルサイトから資料請求して来た方は、電話でいきなりコミュニケーションをとってしまうと、強引な印象を持ってしまうかもしれないので、チャットを含めたオンラインでの相談窓口をしっかりとまずはご案内しよう。
- 資料をご覧になりたいのだから、まずは資料をいち早くお届けしよう。
- ウェブサイト上の行動ログを活用して、お探しになっている間取り、お部屋の広さを事前に把握して、適切なライフプランや資金計画の情報をお届けしていこう。
- ウェブサイトへ頻繁に訪問されているので、何か情報をお探しなのか。もしくは他の物件との比較で迷われているのではないだろうか。スコアが一定量を超えた場合はオンライン商談のご案内を差し上げよう。
といった形で、コンシェルジュのように顧客のニーズにあったコミュニケーションのシナリオを設計していきます。そしてその為には上図に示したような"さらに隠れたニーズ"を理解する事が重要です。そこにウェブサイトの行動データが活用できます。例えば、自社ウェブサイトで3LDKタイプの間取りを頻繁に閲覧している。そういう行動データで顧客の隠れたニーズを先周りしてより適切なコミュニケーション設計に活用する事ができます。
このように顧客に最適な情報提供を行う為に、顧客から収集したデータを起点としデータを駆使するという観点で、自社ウェブサイトの充実、設計、導線、全ての重要性は極めて重要になってきます。
顧客のニーズに沿ったコミュニケーションはできているのか?
顧客のニーズにあったコミュニケーションができているのか?それもデータが教えてくれます。例えばマーケティングオートメーションから送信したメールリンクのクリック率、ウェブページの直帰率、これらの数字が低い場合は、顧客のニーズに合致したコミュニケーションができていないと言えます。これらの数字を改善する為に、コンテンツを見直したり、頻度やタイミングを見直したり、データを根拠に様々な改善を繰り返していきます。
ある事例では、その物件の外観が非常に都会的で、そのスタイリッシュな外観が顧客に興味を持ってもらっているのではないかと思い込んでおり、デザインのコンセプトがメタリックで非常に洗練されたイメージを利用していました。しかし、実際にフォーム入力の際にお子様の有無を確認してみると、多くの顧客が子育て世代だったという事がありました。実際に物件を購入した方に話を聞いてみると、都心でありながら物件の近くに大きな公園があり、さらには子育て世代には嬉しい施設が多数ある地域で、ずっとそのエリアで物件を探していたというのです。
そこで思い切って、子供あり。と回答した方にはご家族で安心して暮らす事ができる環境や周辺施設の情報を織り込んだイメージに変更すると、メール、ウェブ、すべてのデータが急激に改善をしていきました。このように物づくり側の勝手な思い込みというのはよくある事です。しかしデータをしっかりと観察をしていけば、本当の顧客ニーズに気付かせてくれます。
それ以降、弊社ではクリエイティブのABテストは必ず実施し、広告活動の初期のタイミングで、物づくり側の思い込みはないか?という事を確認するようになりました。このようにデータドリブンで顧客ニーズに合致するコミュニケーションを実現していくことで、改善の速度も大幅に上がっていきます。
本記事では、施策の具体例について解説していきましたが、次回以降はこの施策をいかにして自動化し、そしてROIのシミュレーション、改善プロセスの構築をしていくのか、テクニカルな部分についても解説していきたいと思います。
ライター紹介
デジメーション株式会社 代表取締役
天谷 勇一
マーケティングオートメーションを活用したCRM戦略や、データを活用したサイト構築・デザイン制作、WEB広告メニューのプランニング、などデータに基づいたプロモーション戦略を中心に、現場担当者だったからこそ分かるセールス部隊とマーケティング部隊の間に生じる課題の抽出・解決やツール(施策)の定着化運用などが強み。
デジメーション株式会社について
企業成長に貢献する戦略的レベニューパートナーとして、デジタル時代の成長戦略立案及び実行を支援します。企業の成長、即ち収益指標へのインパクトを強く意識した効果的なプランニングを強みとしています。
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