【イベントレポート】なぜMAを使いこなせない?実践者が明かすMA+SFA連携の知恵と勘所

2020年7月29日・30日に開催した「Adobe Experience Makers Live」。本稿では「SFAと繋いでMAの性能を格段にアゲる 〜連携ユーザーに聞く現場の知恵と勘所〜」と題したパネルセッションの模様をお届けします。スピーカーとしてMarketo Engageユーザーコミュニティの分科会「SFKETO(セフケト)」メンバーの3名と、モデレーターとしてアドビ株式会社 冨田 洋平が登壇しました。

本セッションのスケッチノートを見る(クリックで拡大)

Experience Makers Live特設ページにてセッション動画および資料をアーカイブ公開しております。以下のリンクより是非ご覧ください。

Experience Makers Live 講演動画、資料

動画/資料ページを見る

冨田:日本国内におけるMA(マーケティングオートメーション)の普及から、早5年。ツールの進化とともにマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスと、分業化が進んでいるように思います。これにともない、情報共有や効果測定、目標設定など、さまざまなところで「組織間の連携が進まない」という課題を耳にするようになりました。その解決策のひとつとしてMAとSFAの連携が挙げられます。しかし、「導入決定プロセス・社内システム環境・組織構造・SIerとの繋がり」といった日本特有の要因により、いまだ日本ではMAとSFAの連携が進んでいない現状があります。

そこで本セッションではMAを検討している方々、現在のMAを使いこなせていないと感じている方々に向けて、次の2つの質問に対する回答を、SFKETOメンバーのお三方からお話しいただこうと思います。

<本日の質問>
①MAの効果をどのように証明しているか?
②ツール選定や導入時に、気を付けておくことは何か?

SFAとMAと繋ぐといいこととは何か?

冨田:最初の質問に入る前に、「SFAとMAと繋ぐといいこととは何か?」について、確認しておきましょう。

10年前と現在のお客様の行動を比較してみると、10年前はお客様に情報収集の手段が少なかったため、比較的早い段階で営業にコンタクトがありました。営業はお客様からコンタクトがあった時点から活動すれば十分だったのです。しかし、現在はどうでしょうか。チャネルが多角化して、お客様はさまざまな方法で情報収集を進めてしまいます。ご自身で集めた情報をもとに評価を行い、ほぼ決めた段階になって初めて営業にコンタクトがあります。この時点では、すでにある程度、勝負はついてしまっている。そのため、Marketo EngageのようなMAをはじめとするテクノロジーを駆使して、「いかに早期にお客様と接点を持てるのか」ということが重要になっているわけです。

もうひとつ、上記の流れを細分化したマーケティングプロセスの図を見ていただきましょう。左から、広報・PRが「認知」・「興味」を醸成したものを、マーケティング部門が「獲得」・「育成」・「有望リード」へと育てていきます。それをインサイドセールス部門に引き渡し、そのリードが自社の商材に合っているかなどを見極めた上で、営業部門に引き渡し、最後にクロージングを行い顧客化していきます。このプロセスを支える仕組みとして、MA・SFAが存在する。

「獲得〜SQL(アポイント獲得)」までがMA、「MQL(ホットリード)〜顧客」までがSFAです。そのため、MAとSFAが単独で動いても仕方がありません。連携して初めて、ファネル全体を通して、どの段階のお客様に対して、何をすべきかが見えてくるからです。各部門が見るデータを統一することで、全部門が顧客化という同じゴールに向けて話ができるようになるという利点もあります。また、各部門の動きを見える化し、他部門への引き渡すところまで、すべてシステム上で行えるメリットもあります。

Q1. MAの効果をどのように証明しているか?

冨田:私がMarketo Engageの導入コンサルティングをしているなかでいただくご質問No.1が、この「MAの効果をどのように証明しているか?」です。まずは板垣さんから、ご回答をお願いできますか。

板垣氏:MAはマーケティング施策を実現するための補助ツールだと思っているので、「『いくら売上が上がるのか』という質問に直球で答えがあるようなツールではない」というのが私の回答です。とは言っても、効果測定をしないわけにはいかないので、「今MAで自動化している施策をすべて人力で実行したとしたら、外注費はいくらになるだろうか?」と換算してみるのが、私がよく使う考え方の筋です。こうすると効果を説明しやすくなるのかなと思っています。

谷風氏:MAの効果をひとことで言うと、私は「Sales & MarketingをDXすること」だと思っています。具体的には3つの観点があります。

1つめは、高額商談が発生してから締結までの長期間を、人とITが追い切ること。ケンブリッジの商材は高額なので、契約まで数年単位で時間がかかることもザラにあります。その間、営業がアナログで追い続けるのは難しいし、ムラが出てしまう。ところが、MAとSFAを使えば、営業がSFAに登録した商談データを読み込んでMAが「最初の商談から半年経ちましたけど、その後どうですか?」とメールでドアノックしてくれるんですよね。こうやって人とITが得意な領域を住み分けながら、最後まで追い切るというのが、大きなポイントだと思っています。

2つめは、お客様のデータをストックし、活用できること。コンサルティングは抽象的な商材なので、私たちを知っているお客様と商談したほうが、契約締結までの期間が短く済みます。だから、中断や失注した商談、過去顧客のデータは宝の山なんです。アナログの頃は営業の記憶に頼るしかなかったところが、MAとSFAがあればちゃんとデータとしてストックし、いつでも活用できるというのは大切なことです。

3つめは、ファネルをつくることで、数字を見ながら施策を考えられること。コロナ禍で、あるステージにいるお客様の数が2月に激減したタイミングがあったのですが、Marketo Engageを見ていると、減ったことがひと目でわかるので、「じゃあ、どういう施策を打とうか」という話がすぐにできるんです。アナログの頃だったら、「きっとコロナで減っているだろうね」という曖昧な会話しかできなかったでしょう。

林氏:「MAの効果を証明せよ」といわれたら、おそらく私もお二人と同じことを調べると思います。しかし、私たちは社内でそれを求められたことはありません。それは、私たちはMAの導入を一つの施策ではなく、「インフラ」のように捉えているからではないかと考えています。

データドリブンマーケティングという本に興味深い調査結果がありました。
業績下位の企業ほどコスト削減が厳しく、一方で業績上位の企業は平均よりも20%も多くマーケティングに投資をしています。
同じ対象に、どんな内容のマーケティング投資をしているのかを聞いたところ、業績下位の企業は「需要喚起」という短期の施策に多くの費用を投じています。一方、上位の企業は、「ITインフラ」「CRM」「ブランディング」という中長期の施策に投資をしています。
これら中長期の投資が直接的にリターンを計測しにくいことは言うまでもありません。そうなのであれば、LTVや利益といった大きな指標への間接的な効果を見ていくべきと考えています。

谷風氏:誰も投資対効果の話をしなかったのが印象的ですね。「MAを導入すればリードの数はX倍になるので、3年後に投資コストを回収できます」みたいな話を聞くと、未来のことは誰にもわからないのになぜ言い切れるのか、ある意味「数字遊び」なんじゃないかと思うんですよね。

それよりも、林さんの「MAはインフラだ」という話のほうが、すごくしっくりくる。インフラをつくるということは、新しいことを始めるということであって、それを古い価値基準で判断してもしょうがないですから。だからこそ、「経営者を納得させられるような世界観や物語をきちんとつくること」がとても重要だと思います。

林氏:とはいえ、効果測定をしなくてよいという話ではありません。測るポイントを変えるべきだと思っています。例えば、東京アクアラインを建設した後で、「料金所でいくら回収できたか」というところだけで効果を測ろうとする人はいないはずです。直接的な投資に対する回収だけでなく、千葉全体に経済効果や人口変動といった、大きな効果を見ていくことが大切なのではないでしょうか。

Q2.ツール選定や導入時に、気を付けておくことは何か?

冨田:それでは次の質問に行きます。「ツール選定や導入時に、気を付けておくことは何か?」。私が導入コンサルティングをしていると、いろいろな要因でMAやSFAのポテンシャルを生かし切れていないお客様を散見します。そんな方に向けて、お三方からアドバイスをいただければと思います。

板垣氏:MAは自社に必要なタイミングで導入することが大事だと思っています。例えば、名刺がデータ化されていない事が課題なら、先に名刺管理ツールを入れたほうがいいかもしれない。過去のイベント参加者リストがExcelでバラバラに保管されている事が課題なら、先にデータ化して名寄せに注力したほうがいいかもしれない。まずは「自社に足りないものは何か?」と問いを立てて、それを実現するために必要な対策を実行することが一番大事かなと思っています。

谷風氏:導入時に気をつけることは、「改革の王道プロセスをきちんと踏むこと」です。改革の王道プロセスとは、次の4ステップを指します。

  1. わが社がぜひお付き合いしたい「よき顧客」とは誰か?を定義する。
  2. わが社のSales & Marketingは、「よき顧客」を主体的に仕立てられているか?口を開けて待っているだけになっていないか?と社内で内省し、自分たちに足りないものを露わにして、「ヤバい」感を醸成する。
  3. 「よき顧客」を主体的に仕立てられる「将来の仕組み」とはどんなものか?を考える。例えば、ケンブリッジには、ファンを創出して常に温めておく仕組み・休眠顧客を定期的に掘り起こせる仕組みが必要、となりました。
  4. 組織・役割・業務の観点から、「将来の仕組み」を回していくためには何が必要か?を考える。そこから必要なシステムを選定していく。

つまり、最初から「システムは何にしようか?」と話し合うのではなく、プロセスに従って社内で議論を重ねた上で、最後にシステム導入のことを考えます。

もうひとつ大切なことは、これを「マーケターがリードする」ということです。営業もカスタマーサクセスも、目の前のお客様と相対するのがミッションなので、それよりもうちょっと遠いところを見られる位置にいるマーケターが、「将来の仕組み」作りには適任だと思います。

林氏:ひとことで表すと、「戦略」が重要だと考えています。LINE(B2B)の戦略を事例としてご紹介すると、LINE(B2B)は2018年くらいまでエンタープライズだけをターゲットとしていました。月額250万円〜の公式アカウントや数千万円の広告ソリューションしか商品がなかったんです。そこから「SMBに注力しよう」という戦略に切り替え、2019年からプロダクトの大幅なアップデートを実行しました。LINE公式アカウントを完全従量課金制に移行し、LINE広告をオンラインで申し込める新サービスを開始しました。
そこで、MA・SFAが関わる部分であり、私が担当したのは、「数十万に増加する顧客データを管理するインフラの開発」「セールス・インサイドセールスのオペレーション設計」です。MA・SFAは「顧客と接点のインフラ」として重要であり、他のもので代替できるものではありません。一方、これらは戦略の全体から見るとほんの一部とも捉えられます。
プロダクトのアップデートやシステム開発よりも前に、「SMBタスクフォースの結成」「専任セールスチームやインサイドセールスチームを結成」「ヘッドカウントの増強」など組織体制の構築が行われました。それと並行して、「コミュニケーションプランの見直し」や「コンテンツの作成と認知・獲得系施策」など戦略の実行も行われました。
結果として、リード獲得数は2018年から19年にかけて10倍になり、今年は昨年から2倍に伸びているので、18年と比べると20倍になっています。LINE公式アカウントの売上は前年比118%増、LINE広告売上は前年比448%増ということで、大幅に目標を達成することができました。まとめると、戦略をもとに全体像を描き、それに沿ったツールを導入することが大切だと思っています。

冨田:みなさん、ありがとうございました。最後に、本日のまとめとして、SFKETOからのメッセージは「どうせやるなら、会社ごと」「やれるのはマーケターだけかも」という2つです。顧客と向き合うための組織・仕組み(MA・SFA)があってこそマーケティングの真価が発揮されるので、今、ご覧になっているマーケターのみなさんが先導して、しっかりと改革のリーダーシップをとっていただければと思います。本日はご清聴ありがとうございました。

<SFKETOとは>
2,200名以上(2020年7月現在)のMarketo Engageユーザーコミュニティで活動する分科会の1つ。Marketo EngageとSalesforceを連携して活用しているユーザーが集う。参加者の9割がBtoB企業に所属。Marketo EngageとSalesforceの両方の管理者権限を持つシステム管理者を参加の必須条件としている。

<登壇者紹介>
LINE株式会社 B2B事業戦略室 セールスストラテジー&オペレーションチーム 林 直幸氏
コミュニケーションアプリ「LINE」のコア事業である広告事業において、約250名が在籍するマーケティング・インサイドセールス・営業の活動を支える"仕組みづくり"を担う。取引規模は無料から年間数億円、チャネルは直販・代理店・パートナーなど、規模・チャネルともに幅広いことが特徴。

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 アソシエイト・ディレクター マーケティングチーム・リーダー 谷風 公一氏
ケンブリッジは150名が所属するコンサルティングファーム。2018年まで同社でコンサルタントを務め、以降マーケターにスイッチした。現在8名いるSales & Marketingチームのミッションは、契約前に顧客の"改革の意思"を醸成すること。ケンブリッジの商材である「コンサルティング(=プロジェクトの成功)」は、抽象度が高く、取引額も年間数千万円〜数億円と高額であることから、プロジェクト開始までに長期間を要するのが特徴。

HENNGE株式会社 Customer Success Division Digital Intelligence Section Sales Strategist板垣 慎介氏
2019年5月にHENNGEに入社。営業8年、情シス部長3年、マーケター4年という異色のキャリアを持つ。HENNGEの提供するクラウドセキュリティサービス「HENNGE One」は、テレワーク等の多様な働き方を支援するSaaS(Software as a Service)。「HENNGE One」のメインターゲットは情報システム部門。セキュリティは比較的ニッチな分野であり、情報を届けるために工夫を要する。

本セッションの講演動画、講演資料は以下よりご覧いただけます。

Experience Makers Live【動画】
SFKETO

動画を視聴する

Experience Makers Live【資料】
SFKETO

資料をダウンロード