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大きく変わりつつある不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)
人生において、非常に大きな買い物の一つとなる不動産。対面での商談が基本、そして売買契約手続きの煩雑さなど、IT化が課題となってきました。昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で、不動産業界でも商談のオンライン化やペーパーレス化が急速に進みつつあります。また、ここ10年ほどで不動産業界のマーケティング活動は従来のチラシやDMといった手法から、オンライン広告やメール、LINEなどのタッチポイントを活用したデジタルマーケティングを強化する企業が増加しています。
これまでは契約締結のペーパーレス化はIT部門、デジタルマーケティングの強化はマーケティング部門といった形で、従来やっていたことを部分的にデジタル化していくような取り組みが多かったと思いますが、これからはそれぞれ点で進むDXから、全体最適化を目指す本格的なDX推進が必要とされる時代になってきたと感じます。例えば、売買契約をオンライン化で大部分完結する事ができれば、オンラインでの商談の位置付けや必要性が変わってきますし、デジタルマーケティングの強化もより必要になります。点でバラバラにオンラインでのタッチポイントが提供されるだけでなく、顧客の購買活動をオンラインで総合的に支援する一貫した顧客体験の設計も必要となります。
これらを推進する上では、予算配分や体制など組織全体の業務プロセスの見直しが必要になってきます。例えば、モデルルームの営業人員をより非対面での営業人員に配置するような組織的な変更の必要性も出てきます。部分最適化ではなく、組織全体の収益プロセスが変化をしていく必要が出てきています。このような変化の中で企業はどのようにしてDXに取り組んでいくのか。そして、本記事のテーマでもあるオンライン商談を強化していくのか。本記事で解説をしていきたいと思います。
対面後の営業スキル < オンラインでの情報提供
営業活動の主戦場はオンラインへ
オンラインでの商談が増加する事で従来の収益プロセスも大きく変化をしていきます。従来マーケティング活動の大きなKPIとして捉えられていたのは、店舗への来店、モデルルームへの来場または顧客訪問のアポイントです。
対面での営業が基本と考えられてきた不動産業界では、アポイントや来場予約を電話、オンラインで受付し、対面で顧客との商談をセットするのが一般的でした。詳細な情報提供や交渉は営業担当が担い、マーケティング活動はこれらの対面の場へ集客する事に主眼が置かれていました。特に不動産売買ではモデルルームの見学、または物件の内覧から、資金計画の立案、契約締結など複数回の面談が必要で、都度時間をかけて進めていく形が一般的です。今後、商談や手続きがオンライン化する事により、毎回2時間も3時間も時間をかけて来訪してくださる必要性は低くなり、より少ない来訪で購入を検討することも可能になってきます。
毎回多くの時間をかけて訪問する必要がなくなる為、一度に複数の物件情報を収集し、情報を精査し、必要に応じて現地への訪問、または対面での商談を行う事になります。ECサイトのように1 Clickで購入とまではいかないものの、多くの情報をオンラインで収集する購買活動に親しまれている世代が不動産購入のメインターゲットとなる点、そして対面での商談は貴重なものとなっている状況では、"商談前"の情報提供が購買検討のフェーズにおいて、極めて重要になります。対面後の営業のスキルが要求される時代からオンラインでの情報提供に営業活動の主戦場が変わってきているといえます。特に資料請求後の情報提供が極めて重要になっています。物件にあたりをつけたタイミングで入居後の生活・資産性・資金計画・その他問題の有無等、オンラインでかなり詳しく調べていきます。この期間に顧客が求めている情報提供をしっかりとできている、できていないかで、資料請求後の成約率に大きな変化が出てきます。
マーケティング活動のゴールは来訪数の増加ではない
資料請求の数は増えてきているのだが、商談や成約数が伸びないと感じている場合、このような顧客の行動パターンをしっかりと分析し、自社の課題を認識する事が重要です。
最も多いと感じるケースは、マーケティングのゴールが依然として来訪となっているケースです。さらに、資料請求時に取得したお客様の情報を営業担当に引き渡し、それ以降の活動は営業担当任せの場合、更にお客様のニーズとのミスマッチが生じます。お客様は実際には多くの物件に資料請求をしており、そこをきっかけに更なる情報収集を行っていきます。しかし依然として来訪がKPIとなっていると、そこへ向けて営業担当は活動をスタートさせます。
お客様としては、情報収集を開始したばかりで、これから複数の物件情報を精査しようとしているタイミングで、まずは行ってみようと意思決定される方が少なくなってきている中で、「まずはモデルルームを見に来てください」といったコミュニケーションが行われると、意図せず強引な印象をもたれてしまいます。一方で情報収集がひと段落して、知りたい事がまとまってきているような状況で、「一度モデルルームを見に来てください」と言われるのでは印象も異なります。更にそこにオンライン商談で一度相談してみようという選択もできるようになってきた昨今では、更にコミュニケーションのタイミング、顧客の検討ステージを把握する事が大切になってきています。
より精緻化する顧客の検討ステージの把握
オンラインの行動情報を含めた顧客データベースの構築が求められる
オンライン商談、マーケティングのデジタル化において、コミュニケーションのタイミング、顧客の検討ステージを把握する事が重要になってきています。従来の資料請求、来場(来訪)、成約といった大まかな検討ステージの把握ではなく、より細分化、そして精緻化した検討ステージの把握が必要になってきます。
顧客情報の管理についても来場や契約情報だけでなく、検討段階のかなり早い段階から管理をしていく必要が出てきます。資料請求という活動だけでなく、資料請求後にお客様が検討活動を進めているのか。最適なコミュニケーションの手段(メール、LINE、電話など)を把握することも重要です。顧客のニーズを把握する為に、オンラインでの行動情報をサポートするデータベースを構築し、最適なステージ、手段、タイミングでコミュニケーションを図っていく事が必要になってきます。これらのオンラインでの活動、例えばウェブサイトの訪問やメールの開封履歴はマーケティングオートメーション(MA)を活用し、更にスコアリング(顧客一人ひとりの活動情報を定量化する)などの技術を活用する事で、お客様の検討ステージをより細かくニーズの管理をする事ができます。顧客の検討ステージに合わせて必要な情報を最適なタイミングで情報を提供する事ができれば、好意的な印象を持って検討していただけます。
マーケティングオートメーション(MA)を活用し顧客コミュニケーションを自動化
この検討ステージやニーズに沿ったコミュニケーションを人力で行っていくのは現実的ではありません。一人一人の顧客の行動に合わせたコミュニケーションを行う為には、データ収集、データを活用したコミュニケーションの自動化が必要になります。
コミュニケーションの自動化とは、特定のオンラインでの活動やスコアの変動をトリガーとして、パーソナライズされたメッセージをお届けする事です。これにより人力ではカバーできない瞬間瞬間の活動に合わせて、最適なメッセージを抜け漏れなくお届けする事ができます。例えば、ウェブサイトの訪問回数が増加した事でスコアが急上昇したお客様がいらっしゃいます。そこへリアルタイムにオンライン相談のご案内メールを差し上げる事で、商談化の機会は増えると思います。その場でオンライン面談の予約をすることもできるでしょうし、チャットで簡単に相談することもできます。
検討ステージ次第ではわざわざ来訪してまで、確認したい情報でないケースも多数あると思いますし、多忙な日常の中、多数の物件を検討しているお客様にとって、知りたい情報をオンラインですぐに入手できるという価値はより重要になってくると思います。こういう活動はすでに行われていますし、多くの企業が成果を上げています。その中で、この活動をしっかりとマネジメントし、より最適なコミュニケーションを行っていくデータドリブンな収益プロセスマネジメントが重要になってきています。
顧客の検討ステージに合わせた収益プロセス管理
顧客の検討ステージに合わせたより精緻なコミュニケーションを実行し、そしてそれらを全体として管理し、改善していくプロセス管理が必要です。それぞれの活動がいかにして収益と結びつき、そして何を改善すればより良い成果が得られるのか。そういう収益プロセス管理もデータドリブンで実行していく必要があります。商談やマーケティングのオンライン化が進むことで、よりデータの収集は容易になりつつあります。これらのデータを活用して組織全体として、いかにして収益をあげていくのか。そしてそれをマネジメントしていくのか。不動産売買のケースでの従来の一般的な収益プロセス管理との違いとして下図のようなモデルが挙げられます。
資料請求後、物件購入に向けた情報収集を支援する育成ステージがあり、興味を高めていきます。そしてチャットシステムでの問合せを含むオンラインでの問合せにつなげます。この育成からオンライン相談までのプロセスを自動化し、顧客のニーズに沿ったコミュニケーションを行っていきます。その後、商談ステージがあり、対面、そして非対面と分かれます。
この収益プロセス管理は各自動化されたコミュニケーションが収益との関連性を測定できるように設計される事が重要です。資料請求、来場と大まかな把握では、何をすればより来場が増加するのか?という具体的な施策に落とし込むことが困難で、場当たり的な施策を繰り返すことになってしまいます。このように中間のKPIを設定することで、より具体的かつ効果測定が行いやすい施策に落とし込むができるようになります。
プロセス毎の分析によりデータドリブンな意思決定が可能に
全体を俯瞰して、改善余地の高そうなプロセス、例えば、プロセス(育成)からプロセス(オンライン相談)へのコンバージョン率を●●%改善すれば、▲▲件の成約が増える事になる。それであれば、育成プロセス、特に中期ステージに投資をして、追加施策を実施する。コンバージョン率が改善できれば■■千万円の改善効果が得られる。こういうシミュレーションをした上で、具体的な施策を実施してくのと、何となく来場率をあげるでは成果が異なってきます。また改善のサイクルも作りやすく、よりデータドリブン な意思決定ができるようになります。
このように全体を俯瞰しつつ、具体的な施策の改善効果を把握しながら、より最適なコミュニケーションを実現していくという、従来ECサイトなどでは一般的に行われてきたデータドリブンなアプローチが、対面が必須といわれていた不動産業界でも必要な時代になってきました。データを活用して顧客とのコミュニケーションが改善できず、従来の手法に依存しては、やはり物件自体の魅力の差はあるものの、大きな差がついてくるようになってくると思います。次回以降、より詳細な施策やシミュレーションのケースも交えつつ解説していきたいと思います。
ライター紹介
デジメーション株式会社 代表取締役
天谷 勇一
マーケティングオートメーションを活用したCRM戦略や、データを活用したサイト構築・デザイン制作、WEB広告メニューのプランニング、などデータに基づいたプロモーション戦略を中心に、現場担当者だったからこそ分かるセールス部隊とマーケティング部隊の間に生じる課題の抽出・解決やツール(施策)の定着化運用などが強み。
デジメーション株式会社について企業成長に貢献する戦略的レベニューパートナーとして、デジタル時代の成長戦略立案及び実行を支援します。企業の成長、即ち収益指標へのインパクトを強く意識した効果的なプランニングを強みとしています。
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