2020年7月29日・30日に開催した「Adobe Experience Makers Live」。本稿では「スモールスタートからはじめるチームビルディング」と題し、株式会社 日立製作所 佐藤 正樹氏にご登壇いただいたたセッションの内容をお届けします。アカウント営業が主流の大企業で、データ活用を広げていくために行ってきた取り組みをご紹介いただきました。
Experience Makers Live特設ページにてセッション動画および資料をアーカイブ公開しております。以下のリンクより是非ご覧ください。
お客様に会えない今こそデジタルマーケティングが必要だ
冒頭、佐藤氏は、コロナ禍によって激変した昨今の世の中の状況を改めて振り返るところから、話を始めました。
・不透明な見通しによって多数の企業が投資抑制を行う
→「あったらいいな」ではなく「本当に必要なもの」が求められる。
・リモートワーク推奨で意思決定スピードが鈍化
→これまで当たり前に行われてきた社内のコミュニケーションが不足し、事務手続きがなかなかスムーズに進まないことから、セールスサイクルが長期化している。
・業界・企業ごとに大きく異なる状況
→例えば観光や外食産業が大きく打撃を受けている一方で、オンラインサービスは好調になっている。同じ業界でも素早く対応した企業では、それほど打撃を受けていないなど、業界・企業ごとに状況が大きく異なっている。顧客の状況理解が、今まで以上に、大切になった。
「こうした状況を受け、今、必要なマーケティングやセールスのアプローチは、『オフラインからオンラインへ』『アウトバウンドからインバウンドへ』『電話・訪問からメール→電話(Web会議)へ』と変化しており、コストをかけて新規顧客を取りに行くよりも、これまで取引をしてきた既存顧客を大切にしていこうという方向に変わってきている」と佐藤氏は語ります。
同時に、営業活動にも変化が生じており、これまである程度話が進んでいる「いますぐ客」の対応に注力する一方、これから情報収集を始めるような「そのうち客」の対応は、デジタルツールに任せようという発想になっているのだとか。「営業が対応するのか、デジタルツールでコミュニケーションをとるのか、明確に優先順位をつけていこうという動きが出てきています」(佐藤氏)
このような大きな環境変化が起こる以前から、日立製作所(以下、日立)ではデジタルマーケティングの取り組みをスタートさせ、営業部門とともにデジタルデータの活用を少しずつ前に進めてきました。その過程を見ていきましょう。
小さな実績を積み重ねながら社内外の興味を惹きつける
日立は1910年の創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、IT・OTおよびプロダクトを組み合わせた社会イノベーション事業を展開しています。現在、佐藤氏が所属するのは、日立の5つのビジネス(IT・エネルギー・インダストリー・モビリティ・ライフ)のうち、ITの中にあるシステム&サービスビジネス統括本部です。
佐藤氏は1990年に入社してから、デジタルマーケティングの推進に携わるようになるまで、「SE」「設計・開発」「営業支援」「プロモーション」と、さまざまな部門を経験してきました。プロモーションの部隊は、「展博・セミナー」「事業所見学・ショールーム」「Web・メール」といったグループに分かれており、一見するとデジタルマーケティングも含まれているように思えます。しかし、実際は、「展博・セミナー」は集客数を追いかけ、「Web・メール」はアクセス数やクリック率を追いかけるなど、各グループはそれぞれの活動目標に向かって動いており、「全体のプロセスを通して連携できているとは、とても言えない状況だった」と言います。
そこで佐藤氏は「デジタルとリアルなプロモーションを通じてマーケティングの成果を最大化する」というスローガンを掲げ、2018年にデジタルマーケティング推進グループを創設しました。プロモーションで集めたリード情報をまとめ、営業の案件情報や商談情報を組み合わせながらリードを育成し、そこから受注に結びつけようと考えたのです。
佐藤氏は複数の営業部門に対し、「デジタルデータを使って、こういう活動を一緒にしませんか?」と声をかけていきました。けれども、「営業のほうがお客様のことを知っている」と言われてしまい、なかなか良い返事がもらえません。それでもあきらめずに営業部門を回っていると、同じ課題意識を持つ部門を見つけることができ、そこと一緒に活動を始めることになったのです。
具体的には、自社主催イベントや展示会、外部講演などで獲得したリードを顧客DBに集め、Webサイトの情報を記載した「御礼メール」を送ります。Webサイトでは事例や詳細な説明資料がダウンロードできるようになっており、ダウンロードした人には20〜30名ほどが参加する小規模セミナーの案内を送ります。こうしたナーチャリングプロセスの中でスコアリングを行うとともに、小規模セミナーに参加したときのリアルな動向を見ることで、商談につながるお客様の確度を測っていきました。
通常、新規のお客様を商談化するには約2年が必要だったのに対し、この施策を初めて行った結果、わずか3ヶ月で商談につなげることができたと言います。順調な滑り出しを見せたことから、この施策は、2018年上半期・下半期、2019年上半期・下半期と、これまでに4回繰り返して実施しており、「最初はあまり乗り気ではなかった営業も、徐々に興味を持ち始めている」と佐藤氏は語ります。
こうして営業と一緒に小さい実績をつくっていくことで、日立のデジタルマーケティングは、さまざまなメディアに取り上げられるようになりました。社内外に広く露出することで、そこから新たなお客様からの問い合わせが入り、同時に、社内で興味を持ってくれる部門が増え始めたのです。現在では、製造業・公共・設備・IT、はたまたコーポレート全体での活動へと広がっています。
営業活動に寄り添った情報提供がデジタルマーケティングの価値を生む
次に佐藤氏は、「営業部門に対してデジタルマーケティングの価値をどのように示していったのか」について言及しました。
まずBtoB市場の動向を分析し、「世の中の変化によってお客様も変化しており、今のアカウント営業中心のやり方では、時代に取り残される」と営業部門を説得して回ったと言います。
しかし、頭では理解できたとしても、従来のアカウント営業のスタイルから、そう簡単に脱却できるわけではありません。そこで佐藤氏は、「デジタルマーケティングがいかに営業活動に役立つのか」、営業にとっての具体的なメリットを考えることにしました。
そして導き出した結果が、次の2点です。
・営業プロセスの生産性向上
→営業活動の中でお客様と会話するだけでは得られない「お客様が"本当に"求めている情報は何か」といった興味・関心を示す情報を提供できる。
・デジタル事業の拡大に貢献
→リードのナーチャリングによって、お客様の小さな課題を解決しつつ、ソリューション事業を大きく展開できる。
これらを実現するために、佐藤氏は社内に対する情報提供の仕掛けづくりを行いました。
情報提供と一口に言っても、情報を利用する人の立場によって、必要な情報の粒度が異なったり、所属する部門によって、見たい側面が異なってきます。例えば、管理職であれば企業としての俯瞰した情報が必要ですし、担当者であれば目の前のお客様一人ひとりの状況を把握したいですよね。こうした情報を提供するために、BIを活用した動的なダッシュボードをつくり、さまざまな評価軸で切り替えてレポートを表示できる仕組みを整えました。
このダッシュボードでは、Marketo Engageのアクティビティログ(メール開封・Webアクセス・資料ダウンロード・イベント申し込みなどの行動履歴)を企業別に見られるほか、より詳細に見たい場合は企業名を選択すると、その企業に所属する一人ひとりのスコアが表示され、誰の興味・関心が高まっているのかをヒートマップで見ることもできます。また、企業ごとにWebサイトのどのコンテンツにアクセスしているのかが営業がひと目で分かるよう、ページのタイトルを表示するような細かい工夫も施しています。
この取り組みを支えるシステム構成は、以下の通りです。
本来であれば、Marketo EngageとSFAを連携させて、リード情報と案件情報を紐付けたいところですが、日立では先に多くの部門でSFAを活用していることから、なかなか簡単に連携できない事情があるそうです。「近い将来、直接Marketo EngageとSFAを連携し、SFAとBIを連携する形を標準化して、全社展開していきたい」と佐藤氏は語ります。
最後に、佐藤氏は「このような営業活動に寄り添った情報提供を行うことにより、データ活用に興味を持ち始めた営業は増えたものの、今では当たり前になった在宅勤務が始まった4月頃までは、まだ半信半疑のところがありました。しかし、対面での営業活動が難しくなった今、データ活用の必要性は営業サイドもかなり強く実感しており、『ニューノーマルの営業活動において、デジタルデータの活用が必要!』という認識が広がっています」と語り、セッションを締めくくりました。
本セッションの講演動画、講演資料は以下よりご覧いただけます。