オウンドメディアとは、英語で「Owned Media」と書きます。Ownedは「所有する」を意味し、Webマーケティングの世界では、企業が所有・運営するメディアを指します。
近年では、BtoB分野でもオウンドメディアに取り組む企業が増えている一方、参入企業やコンテンツの増加により思ったような成果を出せず、苦戦している企業も多いようです。
今回の記事ではオウンドメディアの基本的な情報から、「コンテンツマーケティング」など、同時に使われる用語との定義の違い・目標設定の仕方など、オウンドメディア運営に関する役立つ情報をまとめてお届けします。
オウンドメディアとは?
オウンドメディアとは、英語で「Owned Media」と書きます。Ownedは「所有する」を意味し、Webマーケティングの世界では、企業が所有・運営するメディアを指します。
オウンドメディアという言葉が日本で紹介されたのは2010年頃といわれています。
テレビ・ラジオ・新聞・Web広告など企業が広告費を支払って掲載する「ペイドメディア(Paid Media)」、SNSやブログでの口コミなど消費者やユーザーが起点となり情報を発信する「アーンドメディア(Earned Media)」(※Earnedは獲得したの意)と合わせて三大メディアのひとつとして考えられることが一般的です。
また近年の特徴として、企業がTwitterやFacebookなどのSNSを公式アカウントとして運営することがありますが、これらの企業SNSもオウンドメディアに入ります。
オウンドメディア=コンテンツマーケティングではない
オウンドメディアを語るとき、同時に議論される言葉に「コンテンツマーケティング」があります。
コンテンツマーケティングとは、潜在的なニーズや課題を持っている層に向けて役に立つコンテンツ(記事、資料、動画など)を適切なタイミングで提供することで、自社の商品・サービスに見込み客の興味を引き付け、最終的に購買行動につなげることを目的としたマーケティング活動のひとつです。
現在、コンテンツマーケティングの施策は、企業ブログや資料ダウンロードなど、オンライン上で行われるものが多くなっており、企業ブログ(オウンドメディア)=コンテンツマーケティングのことだと考えられることがあります。
しかし、コンテンツマーケティングとは、本来「企業が明確な目的・戦略をもとに情報発信者となる」というマーケティング戦略であり、オウンドメディアはその施策や手法のひとつといえます。
オウンドメディア=SEO対策だけが目的ではない
また、「SEO対策にはオウンドメディアが必要」という切り口の話を聞く場合もあるかと思います。
これはすべてが間違いとはいえませんが、誤解のないように理解しておかなければなりません。
2012年頃から、Googleアルゴリズムは大きく変化し、コンテンツの品質を重視するように変更されました。
これに伴い、Google検索上でニーズのあるキーワードや検索クエリに対応するコンテンツ(記事)を用意することで、検索上位表示を狙おうという「コンテンツSEO」という考え方が生まれました。
オウンドメディアの最終的な目的が問い合わせ獲得や購入の場合、その過程として、検索からの流入を増やしたいという戦略はあって然るべきです。
しかし、オウンドメディアがSEO対策の手段「だけ」になってしまっては、本来、潜在顧客が知りたい情報や、自社の製品・サービスの価値を本当に伝える情報からかけ離れてしまう恐れがあります。
オウンドメディアの真の目的は「ユーザーや潜在顧客に役立つ情報を提供し、最終的に自社の利益につなげること」、SEO対策はその副次的(二次的)な目的としてとらえるとよいでしょう。
オウンドメディアが注目されている理由
ではなぜ、オウンドメディアはこれほど注目されているのでしょうか。その背景には、消費者の購買行動の変化があります。
インターネット上での情報収集や比較検討が容易になった現在、読者の皆さんも、なにかを購入する前に「まったく検索しない」ということは、ほとんどないのではないでしょうか。
BtoBの分野でも、その傾向は根付いており、購入・導入する製品の情報を検索して調べたり、比較したりすることは当たり前になってきています。
もっといえば、インターネット上にきちんと情報が整理されていなければ、比較検討のテーブルにのれなくなってきている…といっても過言ではないかもしれません。
このような背景のなか、企業はユーザーの検索行動に答えるため、自社ホームページや自社メディアを活用して情報を発信することに意義を見出しています。
また近年、消費者はインターネット上のあからさまな広告を嫌厭する傾向があることも理由のひとつです。
広告の費用対効果に疑問が生じる一方で、自社メディアであれば広告出稿費をかけずに製品の宣伝やプロモーションができるのではないか?という考え方もあります。
しかし、実際にはオウンドメディアの運用にもコストや運営リソースは多くかかり、成果をあげるのにも時間が必要なため、「思っていたのと違う」と感じる企業も多いようです。
そこで次の項目では、オウンドメディア運営のメリット・デメリットについて考えます。
オウンドメディアのメリット・デメリット
メリット
- 見込み客やユーザーとのコミュニケーション手段が増える。
- オウンドメディアの目的に沿った、価値観の同じユーザーが集まる。
- コンテンツがよければメディアや製品のファンになってくれる人が増える。
- コンテンツや(体系的にまとめられた情報ノウハウ)や人の集まる媒体自体が会社にとっての資産となる。
デメリット
- 運営コスト、人的リソース、時間がかかる。
- 積み立て貯蓄のようで、月々の積立金(予算とリソース=記事)が少なければ、資産形成までにより時間がかかる(しかし、着実に企業資産となっていく)。
成功の秘訣はどうマネタイズさせるかの設計
このように、メリット・デメリットのあるオウンドメディアですが、企業がオウンドメディアを運営する理由は当然、いつか自社の事業に利益をもたらすと信じるからです。
しかし、実際には明確なマネタイズのポイントを計画しないで運用し続けているメディアも多いようです。
しかし、前述のようにオウンドメディアが利益に直接つながるような成果を出すには時間がかかります。
評価ポイントをPV数や送客数などだけにすると、貢献度が薄く、社内から軽視されてしまったり、成果が出る前に更新のモチベーションが下がったりしててしまう場合があります。
そのため、オウンドメディアの評価指標は、メディア経由の獲得リード数、セミナー申し込み数など、送客や購入、問い合わせなど最終的な目標の過程の間接的な貢献ポイントを入れて設計することが大切です。
オウンドメディアの目的別の具体的な指標の例を次の章でご紹介します。
オウンドメディアの目的と各評価指標
この章では、オウンドメディアの目的に合わせて、設定すべき指標の例をご紹介します。
オウンドメディアのなかには、ひとつの目的ではなく、複数の目的を設定しているサイトもあるかもしれませんが、ターゲット層が一緒であれば問題ありません。
ただし、集客すべきターゲットが異なるのであればサイトを分けてもいいかもしれません。
ブランディング
ブランディングを目的としたオウンドメディアの場合、指標は「指名検索の推移」や「会社案内のダウンロード数」などを設定します。
ナーチャリング
ナーチャリング(見込み客の育成)を目的とするオウンドメディアの指標は「リード獲得数」「セミナー申込み数」などを設定します。また、メルマガ開封率、クリック率、転送数などで品質を計り、再訪も促します。
採用
近年、ダイレクトリクルーティングが注目を集めており、採用を目的としたオウンドメディアの指標は、オウンドメディア経由のエントリー数で設定します。
広告売上
メディア事業として広告売上で成り立たせようとする場合、指標は「広告主が求めるターゲット属性がきているか」を計ることが大切です。PV・セッション数・ユーザー数・会員数などが具体的な指標となります。
成果が出るまでに必要な期間
指標を設定したあとは、それをどのように達成するか計画が必要です。
では、オウンドメディアの成果を上げるまでにはどのくらいの時間を想定しておけばよいのでしょうか。
コンテンツマーケティングに特化したカンファレンス「CONTENT MARKETING DAY 2019」のセッションの中で紹介されたContent Marketing Instituteの創設者であるJoe Pulizzi氏の意見 では、コンテンツマーケティングを恋愛に例え、たくさんのコンテンツが重なってエンゲージメント(婚約)し、さらにコンテンツが重なって初めて売り上げに結び付くのだと説明されました。
ワンナイトラブ(一時的なキャンペーン施策)では成功しないため、顧客との永続的な関係性を構築するために最低でも18ヵ月以上実施することを推奨していると紹介されています。
参考記事:「CONTENT MARKETING DAY 2019」レポート 第七回「BtoB Content Marketing World 2019 視察レポート」
成果を出すために必要な記事本数
また、オウンドメディアの成果を出すためには記事の本数も重要な要素となります。
とくにメディアの立ち上げ初期の段階では、記事の「質」と「量」のどちらも必要です。
アクセス解析ツール「AIアナリスト」を運営するWACULの調査(※)によると、インタビュー等の読み物型の記事の場合は166本、データ等の情報ノウハウ型記事の場合は59本以下だと成果が不安定になるといわれています。
集客力やサイトのパワーを付けるためにも、このくらいの本数にいち早く到達することを目ざしたいものです。
※データ参考元:B2Bサイトにおけるコンテンツマーケティングのあるべき姿についての提言(WACULテクノロジー&マーケティングラボ)
目的別オウンドメディア事例
最後にさまざまな企業が運営するオウンドメディアを目的別に分類してご紹介します。
コンテンツ作りの戦略やターゲット像、アクションポイントなど、他社のオウンドメディアから参考にすることができます。
ブランディング
お菓子のスタートアップカンパニーである株式会社BAKEのオウンドメディア。
スイーツブランドの裏側や業界の第一線で働く人の声を紹介しています。
言わずと知れたサイボウズ株式会社のオウンドメディア。
「KPI目標は追わない」「他メディアと同じ記事は書かない」といった独自の運営方針のもと、高い発信力を維持しています。
※参考記事:
Content Hub「サイボウズ式」はいかにして“KPIなし”で成果を出したか
SELECK:サイボウズ式に学ぶ、「製品のPRにはつなげない」オウンドメディア運営術
株式会社ベイジのブログ
BtoBサイト制作を得意とする株式会社ベイジの企業ブログは、マーケティング、デザインなどを切り口に情報発信しています。
「ソーシャルメディアの可能性を探求するメディア」をコンセプトに、株式会社オプトのソーシャルメディア事業部のメンバー(社員)が自ら取材やインタビューを行い、他では読めない記事を公開しています。
ナーチャリング
株式会社クラシコムが運営する北欧雑貨の通販サイトに紐づくメディア。商品やライフスタイルに関する「読みもの」を充実させています。
資生堂が運営するオウンドメディア。美容に関するコンテンツが充実していますが、レシピなど直接、商品と関係のないコンテンツも発信しています。
SEO対策、インターネット広告の株式会社PLAN-Bが運営する情報発信メディア。SEOやデジタルマーケティングに関するノウハウを提供しています。
BtoBマーケティングを支援する株式会社 才流の企業ブログ。代表やコンサルタントが名前を出して記事を執筆しています。
SNSマーケティングの株式会社ホットリンクのコラム。コンサルタントやマーケターがSNSマーケティングに関する調査・分析情報などを発信しています。
InstagramなどSNSマーケティングを支援するテテマーチ株式会社のInstagram活用に特化したメディア。ビジネス活用のヒントやトレンド情報が網羅されています。
フィルム加工会社のパナック株式会社のオウンドメディア。フィルムの基礎知識や専門的なノウハウをわかりやすい表現で発信しています。
大塚商会のERPソリューション情報サイト。多数の導入事例や働き方改革を推進するコラムなどが更新されています。
freee株式会社が運営する経営者・個人事業主に役立つ情報を提供するオウンドメディア。会員登録、資料ダウンロード、気になるキーワードのフォロー機能、ブックマークなどアクションポイントも充実しています。
株式会社ガイアックスが運営する広報・マーケターに役立つ情報を提供するオウンドメディア。Facebook・Twitter・LINE・Instagramなどソーシャルメディア関連の「最新ニュース」「運用ノウハウ」「事例・データ」の情報を配信されています。
採用
株式会社サイバーエージェントの公式オウンドメディア。採用に関するコンテンツが充実しており、「#若手の活躍」「#地方就活」「#女性のキャリア」などキャッチーなタグで記事にたどり着けます。
求人メディア「Green」を運営する株式会社アトラエの社員ブログ。「19卒」「20卒」などのタグがつけられ、身近な先輩社員が記事を書いています。
Sansan株式会社の公式採用メディア。社員インタビューや制度の紹介が丁寧に記事化されています。
「生のナイル」を発信するオウンドメディアとして、ナイル株式会社の様々な部署・切り口から等身大の紹介記事が配信されています。
まとめ
これまでご紹介してきたように、オウンドメディアはWebマーケティングの施策としてすでに広く認知されていますが、その運用方法、目標設定の仕方、達成までのアプローチなど、繰り返し見直すべき戦略・施策が多様にあり、正解はひとつではありません。
オウンドメディアを自社の「資産」といえる段階まで成長させるためにも、他社の事例やオウンドメディアの運営を支援する外部の企業などから広く見識を取り入れながら、自社に合った目的や運営方法を設定することが、一番の成功のカギといえるかもしれません。