「Inside Sales Conference 2019 winter」レポート 第三回 セッション「<“インサイドセールスの人”の価値を徹底討論>注目企業に学ぶインサイドセールスの価値とこれから必要なこと」

従来の外勤営業(フィールドセールス)に対する内勤営業(テレアポ)という区分とは別に、電話やメール、テレビ会議システムなどを駆使して訪問せずに顧客とコミュニケーションを取り、商談創出や受注を担う新たな営業スタイルとしてインサイドセールスが日本でも浸透しつつあります。

人材領域でインターネットを活用したWebサービスを展開している株式会社ビズリーチの調査によれば、ここ5年間で「インサイドセールス」の検索ボリュームは約10倍に伸びているといいます。

同社が主催するインサイドセールスのイベント「Inside Sales Conference」の第三回目となる「Inside Sales Conference 2019 winter」が2019年12月5日(木)に虎ノ門ヒルズで開催されました。
エムタメ!では、四回にわたり、当日のセッション内容をレポートしていきます。

第三回は、インサイドセールスの価値について人材の面から議論が交わされたセッション「<“インサイドセールスの人”の価値を徹底討論>注目企業に学ぶインサイドセールスの価値とこれから必要なこと」の模様をお届けします。

登壇者自己紹介・各社サービス紹介

左から、茂野 明彦氏(株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長)、尾崎 俊亮氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 インサイドセールスグループ グループ長)、横山 豊氏(ベルフェイス株式会社 マーケティング事業部インサイドセールスグループ マネージャー)、水谷 博明氏(HENNGE株式会社 Digital Intelligence Section Manager)

最初にモデレーターの茂野氏から挨拶があり、「インサイドセールス」というワード自体の検索数が伸びており、株式会社ビズリーチが手がける若手向け転職サービスでもインサイドセールス職の募集が伸びていることが紹介されました。
こうしたインサイドセールス人材の需要は高まっている状況を踏まえ、「インサイドセールス一人当たりの価値は、マーケットバリューとして挙がってきているのか?」を焦点に議論していくと本セッションの方向性が示されました。

登壇者は、次の通りです。

登壇者

モデレーター:

茂野 明彦氏(株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長)

(Twitter:@insidesales_job

パネリスト:

尾崎 俊亮氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 インサイドセールスグループ グループ長)

SEとしてキャリアをスタート。その後、BtoBマーケティング支援企業にてテレマーケティング、自社インサイドセールスの立ち上げに携わる。2017年SATORIに参画。現在は商談創出をミッションとして従事している。

会社紹介 SATORI株式会社

2015年設立。「あなたのマーケティング活動を一歩先へ」をミッションにマーケティングオートメーションツール「SATORI」の開発、販売、導入支援、運用支援までを手がける。2019年7月、導入実績500社を達成(※2020年2月現在は700社超)。

横山 豊氏(ベルフェイス株式会社 マーケティング事業部インサイドセールスグループ マネージャー)

2017年2月、従業員数5名だったベルフェイス株式会社に入社し、セールス・マーケティング事業の立ち上げを経験。当時の導入社数200社を2年間で900社まで増加させる。現在は、マーケティングからセールスの連携強化を担うインサイドセールスチームの立ち上げ・体制構築に従事。

(Twitter:@yokoyuta5511

会社紹介 ベルフェイス株式会社

「勘と根性の営業をテクノロジーで解放し企業に新たなビジネス機会をもたらす」をミッションに掲げ、営業に特化したWeb会議システム「bellFace(ベルフェイス)」を開発・提供。リリースから4年で1,200社以上に利用されている。

水谷 博明氏(HENNGE株式会社 Digital Intelligence Section Manager)

広告代理店/Webコンサル会社/ITベンダーにて、営業を10年、Webマーケティングを10年経験。セキュリティSaasベンダーであるHENNGE株式会社にて、Inside Salesの立上げやデジタルマーケティングに従事し、現在はCRM/MAなどのテクノロジーを取り入れた営業DX PJを数々遂行している。

(Twitter:@tf_mizutani

会社紹介 HENNGE株式会社

1996年設立。「テクノロジーの解放で世の中を変えていく。」をミッションに、セキュリティソリューションを中心にオフィス向けのSaasやIoTサービスを提供。社名は、人や動物、あるいは神仏が、本来の姿を変えて現れること、また、さまざまに姿を変えることを表す「変化(へんげ)」から。

インサイドセールス人材の価値を、どう上げていくか

画像引用元:当日の登壇資料より引用

報酬額1,000万円クラスのインサイドセールスプレイヤーは存在するか?

茂野氏:ベルフェイスさんが、ユニークな人事評価の仕組を採用したことを発表しましたね。社外の人材評価会社3社に各社員が職務経歴書を提出し、評価結果を総合的に判断して報酬額を決めるというものでした。

この方法に変わってから、インサイドセールス人材のお給料は上がりましたか?

横山氏:インサイドセールスは4月以降に入社したメンバーがほとんどなので、今後の評価に期待しています。

茂野氏:私の体感だと、1,000万円クラスの報酬をもらっているインサイドセールスは、日本にはほとんどいないのではないかと思うのですが、水谷さんはどう思われますか?

水谷氏:聞いたことがないですね。

茂野氏:SATORIさんには、1,000万円もらっているインサイドセールスプレイヤーはいますか?

尾崎氏:いないです。

茂野氏:ベルフェイスさんには?

横山氏:いませんね。

茂野氏:ということは、インサイドセールス人材の価値は全体的には上がっているはずですが、高報酬を得ているのは一部だけなのかもしれません。
そこで、どうやってインサイドセールス人材の価値を上げていくかというテーマに移っていきたいと思います。

どうやってインサイドセールス人材の価値を上げていくか?

画像引用元:当日の登壇資料より引用

茂野氏:私は、ただ電話をするだけのインサイドセールス人材は価値が上がりづらいと思っています。たとえばマーケティングオートメーション(MA)が使えるとか、オンラインセールスもできるとか、バリューチェーンの全工程ができるとか、プラス要素があると加速度的に価値が上がりますよね。
SATORIさんのインサイドセールス担当者は全員、MAが使えるんですか?

尾崎氏:チームメンバー全員、「SATORI」を使って業務を行っているので、そうなりますね。

茂野氏:どのぐらい使えるんですか? 設計ができるとか?

尾崎氏:設計までできるという意味であれば全体の1/3くらいになるかと思います。1年間程度、現場での経験を積んで一通りの知識を得る必要はあります。

茂野氏:ベルフェイスさんはオンラインセールス部門も持っていますが、クロージングを行わないインサイドセールス組織でもbellFaceを使っているんですか?

横山氏:ええ。一部のお客様に対して、ヒアリングの段階から画面上で顔を合わせてコミュニケーションを取っています。

茂野氏:オンラインセールスは基本的に訪問しないので、ベルフェイスさんでは訪問したい場合は訪問申請書を書いて、マネージャーにサインをもらわないと外に出られないんですよね。

横山氏:そこはかなり厳しくジャッジしています。無駄な訪問をさせないという社風がありますね。

茂野氏:オンラインでクロージングができるというのも、一つの付加価値ですよね。
HENNGEさんのインサイドセール組織は、どんな状況ですか?

水谷氏:うちは、インサイドセールス組織を営業部門で管轄しています。

左から、横山 豊氏(ベルフェイス株式会社 マーケティング事業部インサイドセールスグループ マネージャー)、水谷 博明氏(HENNGE株式会社 Digital Intelligence Section Manager)

1,000万円プレイヤーを作る要素とは?

画像引用元:当日の登壇資料より引用

茂野氏:水谷さんは、マーケティングの設計からインサイドセールス組織の立ち上げ、MAの設定まで全部できるじゃないですか?このような人材は、インサイドセールス人材として1,000万円プレイヤーになれると思うんです。水谷さんのような人材になるには、どうしたら良いんですか(笑)。

水谷氏:私自身の経歴を振り返ると、もとはフィールドセールスからキャリアをスタートしていて、「飛び込み・テレアポ・土下座」という営業の三種の神器を駆使するゴリゴリの営業マンでした(笑)。この時に、モノを売る大変さを知り、お客様とどう会話するかといったスキルを身につけた後、縁あってデジタルマーケティングの領域に入りました。

自社や他社のインサイドセールス組織を見ていて気づいたのが、インサイドセールス人材は、そのマインドによって「モノを売ること」に対して喜びを感じるのか、それとも「ツールを使って仕組みを作ること」に喜びを感じるのか、どちらかに二分されるということ。

私自身はフィールドセールス出身なので、モノを売ることに喜びを感じるタイプですが、より多くモノを売るには、仕組化した方が良いんです。個人の営業成績には限界があるので、売上への貢献度を考えて仕組を作るうちに、そちらの面白さにも気づき始めた。その結果、さまざまなツールを使いこなせるようになったという流れです。

昔はインサイドセールスがなかったので、こういう経験がインサイドセールのスキルにつながっていますが、今はインサイドセールスがあるので、営業スキルもツールを使いこなすスキルも積める環境です。インサイドセールスの経験をたくさん積むことで、1,000万円プレイヤーに近づけると思いますよ。

茂野氏:経験がまず大事ということですね。

インサイドセールス人材のキャリアパスとは?

茂野氏:転職せずに1,000万円プレイヤーになろうとしたら、会社のキャリアパスも大事になってくると思います。
ベルフェイスさんでは、インサイドセールス人材のキャリアパスは、どうなっていますか?

横山氏:当社では、新卒か中途かに関わらず、入社したらまず、インサイドセールスグループに配属されます。ロープレからCRMやMAの使い方まで基本的なスキルを1ヵ月間みっちり叩き込みます。その後、各チームに配属されます。

先ほど、人事評価制度の話が出ましたが、提出する職務経歴書類のなかで、ツール上で自分が作ったダッシュボードを提出した人は高く評価されるケースもありますね。

茂野氏:SATORIさんのキャリアパスは、どうなっていますか?

尾崎氏:当社の場合、基本的にはインサイドセールスでキャリアを作るという方針ですが、入社後すぐにインサイドセールス部門に配属され、3~6ヵ月ほどでフィールドセールスへコンバートした例もあります。

インサイドセールス人材におけるツールスキルの重要性

茂野氏:皆さんのお話を聞いていると、インサイドセールス業務でツールを使いながらスキルを身につけているようですね。そうなると、ツールを導入していなかったり、クロージングは訪問しかさせないといった企業では、インサイドセールスとして価値を高めることが難しいといえそうです。

自身を付加価値の高い人材にしようと考えたら、その組織でどんな経験を積めるか、どんな成功ができるかという観点のほかに、どんなツールを使いこなせるスキルがつくかというポイントも重要になってくるんじゃないでしょうか。
ベルフェイスさんやSATORIさんでは、採用に当たり業務でMAを使う点を売りにしたりはしないんですか?

尾崎氏:SATORIでは、売りにはしていませんね。以前は「MAが使える」「インサイドセールスでの経験が積める」「IT業界での経験が積める」と掲げて募集していたこともありますが、あまり応募は増えませんでした。

茂野氏:インサイドセールスだけどツールを入れていないという企業からの転職者が多いかと思ったので意外ですね。インサイドセールスからインサイドセールスへの転職者はいますか?

尾崎氏:当社の場合、インサイドセールス経験者は1/3程度です。

茂野氏:1/3というと、多い方なんじゃないでしょうか。
HENNGEさんでは、インサイドセールス経験者を採用したことはありますか?

水谷氏:私が担当していた時はないですね。

茂野氏:私もほとんどないです。ベルフェイスさんでは?

横山氏:13名のインサイドセールスメンバーのうち2名がSaaS系のベンダー経験者ですが、未経験者が圧倒的に多いです。

茂野氏:インサイドセールスからインサイドセールスへの転職者は、何を求めて転職してくるのですか?

横山氏:在宅ワークなどやフレックス制度を活用した柔軟な働き方ですね。インサイドセールスチームでは在宅ルールを厳しく設定せず、個人の判断で行っています。もちろん、勤務場所、当日の活動量はリアルタイムでわかるように可視化しています。

左から、茂野 明彦氏( HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長)、尾崎 俊亮氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 インサイドセールスグループ グループ長)

茂野氏:働き方というと、HENNGEさんも柔軟ですよね。

水谷氏:そうですね。当社もリモートワークOKなので。これは私の感覚ですが、応募動機の重きを働き方に置いてしまっている人材は、キャリアに対するパッションが弱く、採用に至らないケースが多いです。

茂野氏:SATORIさんの場合、どんな人材が応募してきていますか?

尾崎氏:インサイドセールスのアウトソーシングサービスを提供している企業でオペレーターとして働いていた人からの応募が多いです。アウトソーシングサービスの場合、数ヵ月間の契約期間が終わると商材が変わってしまいます。次はまた一からスタートしなければならないので、キャリア形成が難しい。それがネックで転職してくる方が多い印象です。

当社のように自社商材を持っている企業のインサイドセールス組織で経験を積むことにより、商材知識とインサイドセールスのスキルを極められると考えるようです。

茂野氏:なるほど。逆の還流もありますよね。事業会社のインサイドセールス組織から、インサイドセールスのコンサルティングやアウトソーシングへ転職するケースもあって、一つの製品だけでなくさまざまな製品での経験や、幅広いレイヤーのお客様との折衝する経験を積みたいからという理由で転職する人もいます。どちらのニーズが多いのかはまだわかりませんが、自分がどちらをやりたいかという点に尽きるかもしれません。

【質疑応答】

左から、茂野 明彦氏( HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長)、尾崎 俊亮氏(SATORI株式会社 マーケティング営業部 インサイドセールスグループ グループ長)、横山 豊氏(ベルフェイス株式会社 マーケティング事業部インサイドセールスグループ マネージャー)、水谷 博明氏(HENNGE株式会社 Digital Intelligence Section Manager)

インサイドセールスのハイパフォーマーとは?

茂野氏:ここからは、会場の質問に答えていきましょう。
「エース級のインサイドセールス人材は、結局、ほかのインサイドセールスメンバーと何が違うのですか?」

水谷氏:大前提として、設定してある予算、KGIといったものを毎回、達成しているということ。あと、大きく違うのは、フィールドセールスとの連携を密に取っていることですね。One on Oneミーティングを欠かさないとか。フィールドセールスが欲しいものが理解できているし、フィールドセールス側からも意見がもらえる。インサイドセールス側の要望をフィールドセールスに伝えるのも上手いです。
そして、インサイドセールスでの経験をもとにフィールドセールスへ昇格して、コミュニケーションスキルをお客様とのやりとりに活かしています。

茂野氏:そういうポテンシャルを、採用のときに見極めるには、どうしたら良いんでしょうか?

水谷氏:私が担当していた時の話ですが、ポイントとしては、ホスピタリティを重視しています。インサイドセールスは、セールスやマーケティングとのコミュニケーションを取るので、人との調整を進んでできるようなホスピタリティが大切になってくると思っています。

横山氏:ベルフェイスでは今年4月に、人事報酬制度を開始したタイミングで、インサイドセールスのハイパフォーマーを定義しました。仮設構築力、コミュニケーション力、文章力の3つの要素が総合的に高ければハイパフォーマーとしています。
意外と重要なのが文章力で、セールスへの案件受け渡しの際に、ひと目でわかる内容が書かれていると役に立ちます。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

茂野氏:インサイドセールスが引き継ぎ文章を誇張してしまうこともありませんか?

横山氏:ありますね(笑)。ただ、商談前に全件、ヒアリング項目は私が確認するようにしています。

茂野氏:その辺りのチェックは、なかなか大変ですよね。私も経験がありますが、客観的事実だけでなく自分の主観を入れて書いてしまうメンバーもいて、確認や調整に時間を取られていました。
SATORIさんはいかがですか?

尾崎氏:大きく二つあると思います。一つ目は、数値達成意欲。二つ目がツールに対する興味ですね。

茂野氏:私もツールに対する興味は大切だと思います。どんな環境を与えられても「もっと使いこなそう」という意欲があるかどうかで変わってきますよね。
SATORIさんのインサイドセールスメンバーには、そういう意欲の強い人が多いですか?

尾崎氏:比率としては全体の10~20%ぐらいでしょうか。定期的な研修でツールの特性や新しい機能をキャッチアップできる体制ではありますが、ツールへの興味が強い人は、研修をしなくても自ら知識を身につけていきます。逆に、興味度合いが低い人は、研修を通し最低限のインプットは可能ですが、それ以上に活用するケースはかなり少ないです。

茂野氏:水谷さんは、新しいツールが大好きですよね(笑)。

水谷氏:大好きです(笑)。

茂野氏:導入時期も国内で一~二番目だったりと早いですよね。現在は、決済者として新しいツールを積極的に活用しようという考えがあると思いますが、プレイヤーの時代から新しいツールに興味が強かったんですか?

水谷氏:やはり、ありましたね。もともとの興味の上に、「これを試したら業務がもっと改善されるかもしれない」「売上が上がるかもしれない」と思ったら試さない手はないですよね。

茂野氏:もともとツールに興味の強い人は、横断的にコラボレーションさせたりもしますしね。

水谷氏:インサイドセールスメンバーの中でも、ツールへの興味は両極端に分かれますよね。

茂野氏:前回のセッションに登壇した取締役の方が、会場からの「視座の高いインサイドセールスメンバーを見分ける方法は?」という質問に、「簡単です。今月と来月のマーケティングのイベントが言えること、現在の営業のパイプラインと着地が言えること」と答えていたんです。自分の前後関係まで興味を持って見ているかどうかによって役割が変わってくると。

どんな求人内容のインサイドセールス職に応募したいか?

茂野氏:次の質問です。
「皆さんがインサイドセールスのプレイヤーだとしたら、どんな求人内容に惹かれますか?」
面白い質問ですね。

水谷氏:私だったら「いろいろなツールが使える」とかでしょうか(笑)。

茂野氏:「ありとあらゆるツールを駆使して業務を行う最先端のインサイドセールスです」といった文句なら?

水谷氏: キャッチーですね(笑)。

横山氏:私は、bellFaceを導入しているかどうか、ですかね(笑)。実は、私も前職でbellFaceを使って営業をしていて、そこでインサイドセールスとオンラインセールスのノウハウ、スキルを身につけることができました。インサイドセールスのメリット、デメリットを理解している人材には惹かれますね。

尾崎氏:私の場合は、まずシンプルに報酬を見ます(笑)。細かいですが、その上で、重視しているのが残業しない社風かどうかという点です。インサイドセールスは成果を上げるための時間が限られているという側面があります。短時間で成果を上げる特徴を持つインサイドセールス職と、会社の評価制度がマッチしているかという点は重要だと個人的に考えています。また、ツールを導入していることは大前提ですね。

水谷氏:転職先でも使い慣れたツールを使い続けたいので、シェアの高いメジャーなツールが入っている企業が良いですね。

茂野氏:インサイドセールス職の求人も5年前に比べると増えてきて、全体的な価値も上がっていますが、「MAが使える」「オンラインセールスまでできる」といった付加価値は間違いなく評価されます。

登壇者の3名中、求人訴求のポイントとして給与を挙げたのは一人だけでした。それぐらい、キャリアやツール環境を重視する傾向が強いということ。若年層を採用したければよりこの点の訴求力が高くなるでしょうね。

若年層というキーワードに関連して、次の質問に移ります。
「新卒でいきなりインサイドセールスになる人はいますか?」

尾崎氏:SATORIでは、いないですね。

水谷氏:HENNGEにも、いません。

横山氏:ベルフェイスでは、今年から新卒採用を開始し、10名が入社しました。アウトバンドコールからオンラインセールスでの受注までを経験してもらい、一定の基準をクリアしたら配属先が決まるという取り組みをスタートしました。

茂野氏:この質問には、続きがあります。
「その場合、入社一年後、二年後、三年後にはそれぞれどんな人材に育っていて欲しいですか?」
これに答えられないと、来年の新卒採用ができませんよ(笑)

横山氏:マーケティング視点を持ったインサイドセールスになって欲しいですね。どこのチャネルから獲得したリードなのか、どんなユーザー心理を持っているのか、そこからどんなトーク構成が必要なのかを思考できるスキルは重要だと思います。

インサイドセールスを立ち上げられる人材の年収はいくらか?

茂野氏:次は、なかなか際どい質問です。
「インサイドセールスを立ち上げられるといケイパビリティの市場価値はどのぐらいですか?年収いくらぐらいもらえるでしょうか?」
想定で構いませんのでお答えください。

水谷氏:立ち上げると一口にいっても、どのぐらいの規模かにもよりますね。

茂野氏:では、「A:マーケティング部門はあり、すでに一定数のリードを保有しているが、現状では営業部門がアプローチしている状態からのインサイドセールス立ち上げ」「B:マーケティング部門もない状態からのインサイドセールス立ち上げ」
それぞれ、いくらぐらいですか?

水谷氏:これはあくまでも私個人の意見ですが、外資系企業ではなく日系企業を前提として、私自身はまだそこまでインサイドセールス職の市場は上がってきていないと思っているので、Aは、年収700~800万円ぐらい、Bは400万円ぐらい。

茂野氏:立ち上げの難易度とは逆に、ですか?

水谷氏:企業側のインサイドセールスに対する理解度はBの方が低いはずなので、そこまでインサイドセールスの価値が高いと判断しないと思うからです。Aは、マーケティング部門があるのでインサイドセールスの知識もある程度は持っていると思うので。

横山氏:個人の経験やスキルセットによりますが、私個人の感覚では、Aは1,000万円ぐらいあげて良いと思います。Bは、私もインサイドセールス立ち上げの難易度があまり理解されていないと思うので、600万円ぐらいかと。

尾崎氏:私自身が採用する立場だと想定すると、いずれもインサイドセールスでの経験がある人材なので、AもBも600~700万円出してでも欲しいですね。前提となる組織体制には報酬はあまり影響しないと思います。

茂野氏:私は、組織の成長フェーズや扱う商材にもよると思いますが、Aは800万円ぐらい出して良いと思いますし、外資系企業だったら1,000万円を超えると思います。

ここからさらに上がっていくかどうかは、どれぐらいの予算を動かせるか次第だと思います。マーケティングの仕事までできるならマーケ予算まで入ってくるし、人材を採用して社内に供給できるなら人事予算も入ってくるわけで、それだけ責任も大きくなり給料も上がるということですね。

インサイドセールスがフィールドセールスの登竜門なら、構造的に給与は上がらない?

茂野氏:次の質問です。
「インサイドセールスを、セールスなど多職種の登竜門的な立ち位置にしている企業も多いと思います。とすると、なかなか習熟度が上がりづらいので、構造的に給与も上がらないと思うのですが」
鋭いご質問ですね。

横山氏:ベルフェイスの場合、インサイドセールスから昇格した先のオンラインセールスやカスタマーサクセスの方が習熟度は上がりやすいですね。

ただ、なかにはインサイドセールスのキャリアを極めたいというメンバーもいます。キャリアアップしてマネジメントする立場につければ給与も上がるので、いかにインサイドセールスから役職につけるようにする仕組づくりが大事だと思います。

茂野氏:ほかの職種のマネジメント経験者に比べると、インサイドセールスのマネジメント経験者は希少なのでの価値が上がりそうですね。

横山氏:インサイドセールス経験者でも、マネージャークラスの経験者からの応募は限られてますね。

尾崎氏:最初に茂野さんが仰った「ただ電話をするだけのインサイドセールス人材の価値は上がりづらい」という話につながっていくと思うのですが、ツールを使いこなせるとしても、電話するだけという人材は遅かれ早かれ頭打ちになるのではないでしょうか。

一方、大きな予算が動かせたり、インサイドセールスの知見からマーケティング部門や営業部門に対しても意見が言えたりするような人材であれば役職者となり給与を上げられる可能性は高いと思います。

茂野氏:インサイドセールス単体では、ある程度、習熟度に時間もかかるし限界があるといえそうですね。

コール前にリードの仮説をどのぐらいの粒度で構築しているか?

茂野氏:「仮説は具体的にどのぐらいの粒度で設定していますか?仮説構築のために使っているツールやトレーニングなどはありますか?」という質問が来ています。
コールする前にリードの情報を見て「大体こんな課題を抱えているだろうな」と予想するかと思いますが、そこからはどの程度まで仮説を立てていますか?

尾崎氏:コール前の情報収集という意味でいうと、当社ではそこまで時間をかけていません。商材がMAですので、Webサイトに力を入れていて、コンテンツマーケティングに取り組んでいるのではという辺りまでですね。コールがした結果キーマンと話せる確率が50%程度なので、精度高く仮説を立てても半分が無駄になってしまうという点もあります。

茂野氏:たしかにMAが商材だとターゲットはマーケターになるので、ある程度は課題の粒度も揃ってきそうですね。
ベルフェイスさんでは、いかがですか?

横山氏:当社では割と力を入れている部分です。Webサイトをチェックすることはもちろん、ツールでは「FORCAS」を使って、広告を出稿しているかどうか、営業職を募集しているかどうかといった分析を行ってからコールしています。営業職の求人状況をチェックするのは、営業部員が足りていないことをあぶり出すためです。
ツールだと「Eight」も使っています。担当者の直近の役職や前職などを調べてコール時の参考にしています。

茂野氏:Eightからは、役職だけでなく人となりまでわかることもありますもんね。

横山氏:人となりは重要ですね。インサイドセールスからセールスへの引き継ぎでも、担当者の人となりは必ず伝えています。

茂野氏:引き継ぎで人となりを伝えるのは、オンラインセールスならではかもしれませんね。フィールドセールスなら、会えばわかりますからね。

水谷氏:HENNGEでは、エンタープライズ向けのクラウドセキュリティサービスを提供しているのですが、昔からがっつりABMを行っています。担当者が良いと思ってくれたからといって導入されるサービスではないので、ベルフェイスさんとは逆に、企業単位でしか見ないですね。

二つの軸があって、一つが「クラウド化する意思があるかどうか」、もう一つが「セキュリティに対する意識の高さ」です。ISMSやPマークを取得しているかどうかといったところを見ます。

そのうえでペルソナを五段階に設定し、ロープレのフェーズからその企業はどのペルソナで進めるかを決めて取りかかっています。

茂野氏:ターゲットが明確だからこそ、そういった型が活用できるということですね。

尾崎氏:クラウド化を図ろうとしているか?という点については、どのように判断していますか?

水谷氏:ヒアリングをしてみないと実際のところはわからないですね。ただ、競合他社の導入事例などからクラウドサービスやツールを導入しているかどうかをチェックして判断しています。

優秀なインサイドセールスを採用するためには

茂野氏:最後のディスカッションテーマは、「優秀なインサイドセールスを採用するためには、もしくは、インサイドセールス人材に成果を出してもらうには、どのような環境・評価の整備設計を行ったら良いか?」です。

水谷氏:「教育カリキュラム」と「明確なキャリアパス」だと思います。他社のインサイドセールス関係者と話していても、ここができていないところは多いです。インサイドセールス人材が、何をどこまで達成すればどのようになれるかをイメージできるようにした方が良いと思います。

茂野氏:そういった整備が整ったなかで、インサイドセールス人材個人はどのように価値を上げれば良いんでしょうか?

水谷氏:先ほどの話とも重複してしまいますが、ツールやデータの活用や、ツールへの情報入力を徹底するということです。

横山氏:私は、経営陣がインサイドセールスの価値を正しく評価して給与に反映する人事制度だと思います。先ほど、当社の人事評価制度について話に出ましたが、単純に人材評価会社三社の評価だけでは決まらず、個人達成率、社内のメンバーからの評価も加味して年収が確定します。

インサイドセールスの市場価値の高め方については、いろいろありますが、複数のWebツールを使いこなせるか、マーケ・セールスを巻き込んだ行動ができているかが重要だと思います。

尾崎氏:役職を上げるためのステップと、役職が上がったときの年収を会社として提示することが大事だと思います。当社の場合、役職が上がるための条件はかなりシンプルで、大きく四つです。

  1. プレイヤーとして一流であるか
  2. リーダーとして優秀であるか
  3. マネジメントのスキル
  4. コミュニケーション能力

この四点について、三ヵ月ごとに定量的に落とし込むかたちで目標を立て、評価し、達成できたら上司が推薦するという方式をとっています。

茂野氏:そこまで仕組化されていると逆に、個人ができることは限られているという印象です。そうすると、インサイドセールス市場のなかで頭一つ抜きん出るようなスタープレイヤーのような人材は生まれないのではないかと思うのです。「いや、インサイドセールスにスタープレイヤーは必要ない」というスタンスなのかもしれませんが、いかがでしょうか?

尾崎氏:スタープレイヤーは必要だと思います。少なくとも、立ち上げの段階では、一人体制という肩身の狭い状況も多いので、スタープレイヤーが必要ですよね。セールスから強風を受けてもしのげるような人材が良いです。

横山氏:仕組を作れるスキルが必要だと思います。プレイヤーとしてアポ獲得など個人成果を出すことも重要ですが、メンバーの成果が最大化させる仕組みを構築できる人が評価されます。

水谷氏:僕はあまりインサイドセールスでスタープレイヤーが出るというイメージはありません。
当社ではジョブローテーションを積極的に進めていて、マルチプレイヤーが評価される傾向があります。私自身は当社ではデジタルマーケティングしか経験してきていないのですが、前職での営業経験やインサイドセールス立ち上げが評価されているのだと思います。インサイドセールスのスペシャリストが求められていない環境ですね。

茂野氏:事業長になろうと思ったら、マーケティングから営業から全部わかっていないといけないので、それを考えると、究極を目指すなら、マルチプレイヤーとはいわないまでも、幅広い経験があって上に立つことが重要なのでしょうね。インサイドセールスのことだけをわかっていても、事業長にはなれませんからね。

本セッションの結論をまとめると、個人としても企業としてもインサイドセールスに必要な要素は変わらず、電話するだけでなくMAツールが使えたりマーケティングの知識がある人材が市場価値に直結すると思いますし、企業側もそういう人材が活躍できる環境を用意しないと優秀なインサイドセールス人材を採用できないということでしょう。
逆に、ただ電話をするだけのインサイドセールス人材に高い報酬は払えないということです。

そういう見極めをしていただきながら、今日お伝えしたようなことを参考にインサイドセールス人材・組織の市場価値を伸ばしていただければと思います。
最後に、登壇者の皆さんから一言ずつお願いします。

水谷氏:HENNGEでは、フィールドセールスも含めて「営業3.0」というコンセプトを掲げています。これは、デジタルネイティブなセールスマンを増やすという意図で、セールス組織全体がデジタライズすることで、より生産性を高められるようにならないと、人口減にも対処できないし、優秀な営業マンとそうでない営業マンとの差を埋めていかないと、売上の底上げもできない。そう考えているので、目下、テコ入れしていきたいと思っています。

横山氏:個人的に、インサイドセールスを目指す方やキャリアを積んでいきたい方を増やしていきたいという想いがあります。

私自身、前職からインサイドセールスに従事していますが、かつてフィールドセールスをしていた時代はまったく受注できなくて、あるとき上司にオンラインセールスを依頼打診されて、bellFaceを導入しました。そこで、全社でトップの新規開拓数を樹立し、世界観がまったく変わりました。なかには、私と同じようにフィールドセールスでは成果が出なくてもインサイドセールで成果が出るというケースがあります。

尾崎氏:私自身、インサイドセールス職に携わるようになってからまだ三年弱です。もともとはでキャリアをつくっていくイメージは持っていませんでしたが、短期間で成果を上げ、実績を作り、キャリアをつくっていけることが、インサイドセールス職の大きな魅力の一つだと思います。

一~二年という短期間でも「やる」と意思決定して実行すれば、大きな収穫がありますので、ぜひ一緒に盛り上げて行きたいと思っています。

茂野氏:以上、「インサイドセールス人材の価値」に焦点を当ててディスカッションしてきました。ご清聴ありがとうございました。