「Inside Sales Conference 2019 winter」レポート 第一回 セッション「どこまでやるべきか? セールス組織でのデータドリブン文化定着への課題と実践方法」

従来の外勤営業(フィールドセールス)に対する内勤営業(テレアポ)という区分とは別に、電話やメール、テレビ会議システムなどを駆使して訪問せずに顧客とコミュニケーションを取り、商談創出や受注を担う新たな営業スタイルとしてインサイドセールスが日本でも浸透しつつあります。

人材領域でインターネットを活用したWebサービスを展開している株式会社ビズリーチの調査によれば、ここ5年間で「インサイドセールス」の検索ボリュームは約10倍に伸びているといいます。

同社が主催するインサイドセールスのイベント「Inside Sales Conference」の第三回目となる「Inside Sales Conference 2019 winter」が2019年12月5日(木)に虎ノ門ヒルズで開催されました。
エムタメ!では、四回にわたり、当日のセッション内容をレポートしていきます。

第一回は、データに基づくインサイドセールスについて議論が交わされたセッション「どこまでやるべきか? セールス組織でのデータドリブン文化定着への課題と実践方法」の模様をお届けします。

 

登壇者自己紹介・各社サービス紹介

左から、絹村 悠氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 本部長)、宮城 学氏(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット 営業統括部 部長)、清水 雅史氏(株式会社GA technologies 専務取締役執行役員)、杉井 健人氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 部長)

モデレーターである絹村氏からの挨拶の後、各登壇者から自己紹介がありました。

登壇者

モデレーター:

絹村 悠氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 本部長)

外資系ITベンダーでアカウントセールスに従事したのち、BtoB領域でのeコマースビジネスの責任者としてデジタルマーケティングの運用及びインサイドセールスチームの活用によりビジネス成長を牽引。その後、Tableau Japan株式会社にてインサイドセールスチームの立ち上げを行い、現在は日本の中堅、小規模企業におけるデータ活用推進を支援。

パネリスト:

宮城 学氏(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット 営業統括部 部長)

人材ビジネス、大手移動体通信会社での法人営業経験を経て、2010年に株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン入社。ゴルフ場向けの営業を経験後、2018年から営業統括部長に就任。

会社紹介 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン

2000年に設立。2015年に東証一部上場。ミッションは「ゴルフで世界をつなぐ」。米国でNo.1のゴルフレッスンサービス企業であるGOLFTEC社を連結子会社化。 ゴルフ総合サービスのプラットフォームとしてゴルフメディア、ゴルフ場の予約やネット通販、レッスンとそれを通じた物販を提供。会員数は405万人で日本のゴルフ人口の60~70%を占め、国内外での提携ゴルフコース数は2,000以上。日本のゴルフ場提携率は90%以上を占める。
インサイドセールス組織の状況 2018年にTableauを導入し、営業組織での活用を開始。データドリブンな営業の推進と並行してインサイドセールスを立ち上げて、顧客との効率的かつ効果的な接点を作り出すため、一人の顧客にフィールドセールスとインサイドセールスの担当がつくという独特な体制を取る。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

清水 雅史氏(株式会社GA technologies 専務取締役執行役員)

前職では、不動産デベロッパーで営業を経験。2013年の会社設立時から営業部門を統括。

会社紹介 株式会社GA technologies

2013年設立。2019年12月時点で従業員数339名まで成長し、2018年7月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。不動産テック総合ブランド「RENOSY」を提供。グループ全体で、賃貸、売買、リノベーション、不動産投資などのtoC向け不動産サービス提供と、不動産管理会社、金融機関、リノベーション事業者などtoB向けシステム開発を展開。不動産の賃貸・売買・投資がワンクリックで行えるようなサービスを目指す。
インサイドセールス組織の状況 2018年にインサイドセールス組織を立ち上げる。アポイントの設定と、顧客背景、ニーズなどのヒアリングを担当。内容を精査した上でフィールドセールスにアポイントを供給していし、セールスの流れを分業化することで効率化を測っている。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

杉井 健人氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 部長)

高校・大学時代をドイツで過ごし、ドイツのERPベンダーを経てTableau Japan入社。

会社紹介 Tableau Japan株式会社

「We help people see and understand data」をミッションにデータを可視化するソフトウェアを提供し、人々と組織がデータドリブンになることを支援する。

各社のデータ環境紹介

画像引用元:当日の登壇資料より引用

つづいて、各社のデータ環境についての紹介がありました。
(以下、敬称略)

スコアリングでお問い合わせ対応を効率化(GA technologies)

清水:当社では、徹底的に営業のKPIをデータ化し見える化をしています。Tableauを導入する前も常に営業の数字は見ていましたが、更新スピードが速いとはいえませんでした。Tableauを導入してからは、行動履歴がリアルタイムで刷新され、アラートが出るようになったので、すぐに営業活動にフィードバックできています。

また、マーケティング部門ではお客様の内容をスコアリングしランクを見える化することにより、お客様からのお問い合わせに、無駄のないコミュニケーションや営業活動が可能になり、営業効率が上がりました。

顧客への情報提供や営業部門の進捗確認でデータを活用(ゴルフダイジェスト・オンライン)

宮城:当社でも、営業の数値に特化してデータを活用しています。当社の営業体制は、一人の顧客にフィールドセールスとインサイドセールスの担当がついて連携を取って営業活動を行うという独特な体制を取っていますが、これは、一つひとつのゴルフ場の予約データが日々、膨大に出てくるため。この収集データをデータベース化して、ゴルフ場にトレンドとして共有し、販促施策として活用しています。

一方、社内では、プレイヤーとマネージャー、インサイドセールスとフィールドセールスで、共通のデータを利用し、全員が同じKPIをタイムリーに追いかけることができています

また、顧客ごとの商材・予約・販売データを集約した「The Golf Couse Karte」を作り、営業担当者が変わっても知見レベルを低下させないような取り組みもデータを活用して行っています。

プランニング、既存顧客フォロー、人材評価などでデータを活用(Tableau Japan)

杉井:私自身も、自社製品のTableauを活用しているユーザーです。データのミッションは、営業部門が持つポテンシャルを最大限に活用することだと捉えており、そのためにはデータを元にプランを練り、全力で実行して振り返り、フィードバックさせるという一連のサイクルを回す必要があると考えます。

まず、プランニングフェエーズでの活用例をご紹介します。次のスライドの左側のグラフが、当部門の既存顧客からの累計売上、右側のグラフが新規顧客からの売上を表しています。
色は案件のボリュームを表しており、濃い青が大型案件で、グレーは小口の案件です。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

上から下に年度の新しいものになるのですが、当初は新規顧客からの売上と既存顧客からの売上が同じくらいでした。当社の製品の特徴から、顧客企業の一部門から全部門へとユーザーを広げていく必要があり、そのようにシフトしていきました。

具体的にどのような施策を行うかとなったときに、既存顧客に優先度をつけて優良顧客にシニア営業マンを当てることにしました。優良顧客の基準設定も難しいのですが、当社の場合、製品がライセンス方式での提供なので、従業員数がもっとも重要です。

次のスライドでは、〇印の一つひとつが顧客一社を表し、右に行くほど従業員数が多い顧客、上に行くほど社内での浸透率が高い顧客です。たとえば、従業員数400名の企業で40名がユーザーなら浸透率は10%となります。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

グラフの左上に位置する、従業員数は少ないものの、ほぼ全従業員がユーザーというエリアの顧客によくある勘違いが、営業担当としては顧客との関係性も良いため「優良顧客」と認識しやすいのですが、実はこれ以上の伸びが見込めないため、そうはいえないというもの。

このエリアにも専任で営業担当を置きますが、営業力の高い営業マンを当てる部分ではありません。従業員数が多いが、浸透率が低い、右下のエリアにリソースを割くべきなんです。

プランニング以外にも、具体的なアクションを起こす際にデータを活用しています。たとえば、既存顧客へのアプローチの際「どのようなタイミングでフォローアップを行うのが良いのか?」という疑問が沸いてくるかと思います。顧客のログデータを参照すると、初回購入から二回目の購入までにどのぐらいの期間が空いているかを把握できます。

次のスライドのグラフは、縦軸が初回購入の時期を表し、横軸は時間の経過を表しており、右に行くほど二回目の購入までの期間が空いていることになります。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

これを見ると、二回目の購入をしてくれている顧客のほとんどが、半年~1年以内の時期に購入してくれているということがわかります。そこで、インサイドセールスに対応すべき顧客リストを渡す際に、初回購入から3~4ヵ月経っている顧客を重点的にフォローしてもらうように伝えるようになりました。

さらに、営業マンのパフォーマンスもデータから判断しています。営業マンごとにオーダーサイズを分析したグラフが次のスライドで、新規顧客、既存顧客、案件の大きさのバランスが一目でわかるようになっています。このようにデータに基づいて、戦略通りの成績が出せているかという観点から個々の営業マンを評価しています。

画像引用元:当日の登壇資料より引用

データドリブンな営業組織を構築しようと考えたきっかけ

絹村:本セッションのテーマの一つに「営業組織のなかのデータカルチャー」があります。私自身もよく受けるのが「本当に営業部門にデータ分析をさせるべきか?」「させるとすれば、どれだけ時間を割くべきか?」という質問です。
データを扱える営業組織を作っていこうと考えたきっかけ・経緯などをお聞かせください。

清水:不動産業は全体的に担当者の経験や勘で意思決定をする傾向が強く、売上件数や金額が上がれば正という考え方が浸透していました。プロセスを重視しないため、再現性がなく上司が部下を指導できないという点が大きな課題となっていました

そこで、「すべての数字を見える化し、リアルタイムで把握できれば、成績の伸びない営業マンにもトップセールスマンと同じ動きをさせることで結果を出せるだろう」と予測。感覚や感情という曖昧なものではなく、事実である数字をもとに意思決定をしたいと考えたのがきっかけです。

清水 雅史氏(株式会社GA technologies 専務取締役執行役員)

宮城:当社の場合、一言でいうと「トップセールスマンの勘とセンス」を見える形にできないかと考えたことがきっかけです。

繁忙期のプレー料金についてゴルフ場のお客様からご相談を受けることがあるのですが、入社したての頃、先輩はデータをちょっと見てからすぐに「このぐらいですね」と提案していたので、「提案している金額に根拠はあるんですか?」と聞いたことがあるんです。すると、「大丈夫、大丈夫!やっているうちにわかるようになるから」と(笑)。
たしかに、何年か経つと感覚でできるようになってくるのですが、後から入社してきた後輩に引き継ぐ際に、ノウハウをきちんと見える形にしてパスした方が再現性が高くなるのではないかと。それをデータを使ってできないかと考えたんです。

左から、宮城 学氏(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット 営業統括部 部長)、清水 雅史氏(株式会社GA technologies 専務取締役執行役員)

データカルチャー定着への課題と実践方法

画像引用元:当日の登壇資料より引用

絹村:では、そのようなきっかけで導入したデータドリブンな営業体制を定着させていくプロセスで突き当たった壁や、それをどのように乗り越えたかという辺りのお話を伺えますか?

清水:データ活用のためのフォーマットを作成し、これを個別ミーティングからチームミーティング、部単位で行うミーティングにまで持ち込んで振り返りに使用しました。

絹村:なるほど。ある程度、ルール化することが重要ですよね。当社もそれに近いことを行っています。

清水:ええ。日単位なのか週単位なのかは企業によって異なるとしても、PDCAを回していくことが重要だと思います。

杉井:それは、中間管理職が入り込んで行うのか、それとも、自分たちでPDCAを回せるようになることを目標に進めていくのかというと、どちらですか?

左から、清水 雅史氏(株式会社GA technologies 専務取締役執行役員)、杉井 健人氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 部長)

清水:ゆくゆくは個人で回せるようになって欲しいと考えていますが、現段階ではまだマネージャーが戦略立案したものをプレイヤーに落とし込んでいる状態です。まだ、進め方がわかっていないプレイヤーがいます。

絹村:知見が溜まるまでは、なかなかアウトプットが難しいですからね。

宮城:当社では、定着のために「このデータは、どういうシーンで何を示唆するか」という説明を帳票ごとに事細かに行いました。すると、お客様から「こういったデータが取れないか?」と相談を受けたときにすぐにデータにたどりつけます。こういう成功体験を積み重ねることでデータの使用頻度が上がっていくと踏んだのです。
逆に、ないものであったら良いと思うものは、どんどん提案して欲しいと伝えています。

絹村:三社とも、ある程度、共通のテンプレートやスキームといったものを用意しているようですね。

宮城:社内でTableauのユーザー会を立ち上げて運用しているのですが、最近では、何か課題があると「それ、Tableauで組めないの?」という発言が当たり前のように出るようになりました。

宮城 学氏(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット 営業統括部 部長)

絹村:口コミや人と人とのつながりのなかで少しずつ浸透させていくような施策というのは必要ですよね。特に営業マンは、周囲の営業マンがどんなツールを使っているかなど、よく見ていますからね。

宮城:ええ。逆に、自分だけが使っていないと焦って使い始めるので、上が「使え!」とうるさく言わなくても、自主的に使うようになります。

杉井:お聞きしていると「良いものを見つけやすくしてあげる」ことの大切さを痛感します。当社では、入社時のオンボーディングのプログラムのなかに、どこにどんなデータがあるかを組み込んでいたり、総合コミュニティでどういうデータがあるかを質問できるチャンネルを持っていたりします。

宮城:当社では、営業部門のイントラネットのようなものがあり、そこで見たいデータの種類を、たとえば「リードタイム」「市場動向」「実績」といった項目から探せるようになっています。また、必要だと思われる新しいデータを誰でも追加できるようになっています。

左から、絹村 悠氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 本部長)、宮城 学氏(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフ場ビジネスユニット 営業統括部 部長)

絹村:そういった施策を行う推進チームのようなものがあるのですか?

宮城:チームではないのですが、必ず1名はTableauユーザー会メンバーがおり、議論された内容についてはチームに持ち帰って反映してもらっています。上から言われるより、同じ目線で同じ苦労をしているチームメンバーに言われた方が浸透しやすかったりするので。

【質疑応答】

データ入力を徹底させるには、どうしたら良いか?

絹村:ここで、会場からいただいている質問に答えていただこうと思います。
「データをきちんと入力させていく必要があるが、活躍しているベテラン営業マンが入力を嫌がる傾向がある」ということですが、入力しないメンバーを巻き込むような方法、事例はありますか?

清水:当社の場合、CRM、SFAを自社のエンジニアが開発しているので、入力しないとCRMを閉じることができないような仕様にしてしまいました(笑)。

また、メンバーごとに入力のパーセンテージも出るようになっていて、パーセンテージが低いメンバーはいくら営業成績が良くてもマネージャーから指摘を受けるといったペナルティを設けています。

杉井:当社もペナルティを課すのに近くて、「入力されていない案件は存在しない」というポリシーを持っています(笑)。だから、いくら訪問しても、見込み案件を持っていても、入力していないものはまったく評価されないということになります。「あなたを評価したいから入力して欲しい」というスタンスで入力を促進しています。

杉井 健人氏(Tableau Japan株式会社 コマーシャル営業本部 部長)

上層部には、どのようにデータカルチャーを承認してもらうか?

絹村:次の質問です。
「データカルチャーを作る際、上層部がデータ活用に懐疑的な場合、どのように承認してもらいますか?」

宮城:データを使わせることで業務効率や営業成績を上げるといったアプローチではなく、あくまでも今まで培ってきた営業ノウハウを資産としていかに形に残すかという切り口で話しています。

絹村:ありがとうございます。まだまだ、お聞きしたいことがたくさんあるのですが、時間が来てしまいました。

当社では、これまでにお付き合いしてきた世界各国のお客様のデータカルチャー醸成を見てきて得た知見から、どんなところでつまづくか、どういった要素を取り除けば良いのかといったことをまとめたガイドブック「Tableau Blueprint(タブロー・ブループリント) 」を作成しました。細かい実装の部分についても体系化して載せていますので、自社にデータカルチャーを作っていきたいとお考えの企業様はぜひご参照ください。

本日は、ありがとうございました。